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2019.01.19

ライフ

日本人が知らないエジプトの国民食を日本で。現地修行の波瀾万丈エピソード

OCEANS’s PEOPLE ―第二の人生を歩む男たち―
人生の道筋は1本ではない。志半ばで挫折したり、やりたいことを見つけたり。これまで歩んできた仕事を捨て、新たな活路を見いだした男たちの、志と背景、努力と苦悩の物語に耳を傾けよう。
>須永司のインタビューを最初から読む
須永司は現在35歳。「エジプトめしコシャリ屋さん」の主人である。そのお店は、今のところ1台のキッチンカー。ブルーの車体を目印に、首都圏近郊に日々出没。お昼時のビジネスマンの空腹を満たすだけでなく、週末には様々なイベントに出動。少しずつ固定ファンを増やしている。
ひとりで店を取り仕切る須永は、京都の有名私大を卒業後、電子部品メーカーの営業職として活躍。将来を嘱望されていた。が、社会に出て10年を経て、あっさり退職。「コシャリ屋さん」へと転身した。
前回前々回と彼の半生を追ってきたが、今回、ようやく「コシャリ」が登場。様々な部活と、前のめりすぎたサラリーマン時代の経験が、とうとうエジプトで開花し、日本でも炸裂する。須永司、転職修行編のはじまりはじまり。
やりたいことがあるならやるしかない! 一念発起して、いざエジプトへ

「これはいけるかもしれない!」。
須永司はサラリーマン時代の2011年、休暇で一人旅に出たエジプトでコシャリに出会った。電子部品メーカーの社員として中国に赴任し、異国の圧倒的なスケールとスピード感に打ちのめされた須永は、日本で培ってきた経験や意識だけでは将来絶対に勝てないと痛感し、「もっと世界を知ろう」と積極的に旅に出るようにしたのだ。
「エジプトのコシャリなんて、その時まで全然知りませんでした。でもエジプトだとどこでも買えて、みんなが食べている。ごくごくあたりまえの料理だったんです。そんな“普通のもの”なのに、日本では誰も知らない。で、食べてみると美味しい。これ、日本でやったら絶対面白い! って思ったんです」。

そもそも須永さん、入社当初からうっすらと独立志向があったという。
「“この仕事がしたい”というより、“一番になりたい”、“厳しい環境で成長したい”というのがモチベーションだったので、いずれ自分で何かしたいと思っていました。何をしたら面白いか、とか、マーケットにはこんなニーズがあるんじゃないの、みたいなことをずーっと考え続けていたんです」。
中国赴任以降、そこに“世界”という新しい基準が加わったけれど、入社してからアイディアだけは蓄積してきたのだ。だから実は、須永さんの中にはやってみたいことがいっぱいあったのだ。だが会社が嫌なわけではない。仕事はちゃんと楽しい。しかし資金もなく、人脈もなく、知識もなく、積極的に独立する踏ん切りがつかなかった。
「いや、やりたいことがあるんだったら“知識がない”とか“人脈がない”とかって、単なる言い訳なんですよ。自分で勉強したり動いたりすればいいんです。何にもしなかったら、そりゃもちろん“ない”ですよね……。
僕が32歳ぐらいのころに、10歳ほど上の先輩が急に亡くなったんです。結構僕によくしてくれて、社内でも将来を有望視されていたエース的存在の方で、ものすごくショックでした。どれだけ期待を寄せられていても、本人が将来にどんなビジョンや希望を持っていても、何もせずに死んでしまったら、一瞬でまったく何もなかったことになってしまうんだ、って。自分だって明日死なないとは限らない。だからやりたいことがあるなら、やらなアカンねや! って」。
誰にも相談せず、ひとりで決断した。ただ、当時婚約中だった、今の妻に報告だけはした。
「やりたいことがいっぱいあるんだと。そしたら“面白そうやん!”って言ってくれました。彼女は、京都で飲み屋さんを経営してたんですけど、“アンタとやったら貧乏してもいいよ”って」。

そして2015年5月、32歳の時に電子部品メーカーを退社。3日後にはエジプトに旅立った。もちろんコシャリの修行のため。
在籍中の10年間で蓄積した“もし独立したら”のネタ帳にはかなりの項目が並んでいたが、そのなかからコシャリを選んだのは「まず、事業を起こすほどの資金がなかったから(笑)」。
「それと、自分のアイディアの中で、実現するのにいちばん難しそうなことをしようと考えたから。だって難しいことで成功ができたら、自分のなかに“難しいことを成功まで持っていくやり方”が身につくと思うんで。その後、別のことに挑戦した時にもうまくいくだろうと。それで、日本で誰も知らないコシャリをやろうと決めたんです」。
子供の頃から未経験スポーツの部活に体当たりで挑戦し、常にものにしてきた須永さん、サラリーマン経験で、その辺りのメンタル&メソッドが圧倒的にバージョンアップされていた。


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