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なぜ辣腕ビジネスマンほど、中学受験で子供を“潰す”のか

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父親と中学受験 Vol.1
「仕事ができる父親ほど、子育てに苦手意識がある」。そんな傾向があることは、昔から根強く囁かれている。仕事で結果を出すための手法と、子供の素質を伸ばすための手法が相反することが多いからだ。しかし、いざ「中学受験」となると、子供と共通目標を立てて合格という結果を得るために、自分のビジネスノウハウが活きてくるはず! と意気込む父親も多い。実は「中学受験」には大きな落とし穴があるとも知らずに……。
この連載では、年頃の子供がいるオーシャンズ世代の父親が「中学受験に関わるときに注意すべきこと」を、教育・育児ジャーナリストのおおたとしまさ氏に直言してもらいます。


子供は「小さなビジネスマン」ではない

託されたプロジェクトは必ず成功させる。無理難題も持ち前のねばりと馬力で切り抜ける。そんなイケてるビジネスマンほど、わが子の中学受験に関しては慎重になったほうがいい。最悪の場合、子供が壊れるからだ。

子供が中学受験をする年齢にさしかかるということは、その父親は、たいがい15年以上の月日をビジネスの世界で過ごしてきたことになる。ビジョン、ストラテジー、ターゲット、マネジメント、コンピタンシー、コスト、そしてPDCA……。そんな摩訶不思議な言葉が飛び交うビジネスの世界に、頭も体も最適化している。

その視点から中学受験を見ると、偏差値は株価に見える。テストの点は売上。塾のカリキュラムは週単位のPDCAサイクルだ。PDCAサイクルを効率的に回せば、売上が上がり、株価も上がる。そんなストラテジーが瞬時に描ける。部下のマネジメント力にも自信がある。

そんな状態で子供を見ると、本当の子供が見えなくなる。

子供は株価を上げるために生まれてきたのではない。売上を伸ばすために勉強するのではない。最初からPDCAサイクルを回せるようにはできていない。そして子供は部下ではない。そんな当たり前のことを忘れてしまう。

いま、数字に追われ、常に「カイゼン!」を迫られる世知辛い世の中で、大人でさえうつ病や新型うつと呼ばれる症状が増えているのだ。ビジネスマンと同じようにふるまうことを求められれば、普通の子供は壊れる。


「オレはできたのに……」は言ってはいけない

父親自身の受験での成功体験もくせものだ。

暗記の仕方も復習の仕方も、やり方は十人十色。誰かから教えてもらうのではなく、試行錯誤しながら各自見つけるものだ。しかし、教育の素人である親は、良かれと思って、自分のやり方を子供に押しつけがち。しかもそれが高校受験や大学受験のときの勉強方法だったりすると、まだ精神的に未熟な10~12歳を壊すくらい、たやすいことだ。

かといって、中学受験経験があればいいというものでもない。10〜12歳のころの試行錯誤の記憶なんて消えている。本当は自分だって最初はできなかったはずなのに、それを忘れ、子供には最初からうまくやることを求めてしまう。

「オレはこれでできたのに、なぜオマエはできないんだ……」。悪気はなくても、子供が最も傷つく言葉のひとつである。


「オマエのため」は「自分のため」

しかしもっともやっかいなのは、「自分はできる」というプライドだ。子供の成績を、自分の父親としての成果だと思ってしまうのである。

思い通りの成果が上がらないと、「PDCAサイクルは完璧に指示したし、秘伝の勉強法も教えたのに、これで成績が上がらないのはおかしい」と、子供を責めてしまう。もっとPDCAサイクルを徹底したり、勉強法を細かく指示したりという方向に向いてしまう。

ここで相手が会社の部下ならば、大人だから、「はい、わかりました!」と良い返事をしておきながら、適当に受け流す知恵がある。仕事帰りに同僚と愚痴を言い合ってストレスを吐き出すこともできる。最悪の場合、「パワハラ」で人事に訴えることもできる。

しかし、子供にそのような手段はない。大好きだったパパからの叱責を、小さな体と心で、文字通り必死に受け止めてしまう。

子供の受容能力を超えてまで勉強を強いることを昨今「教育虐待」と呼ぶ。受容能力は人によって違う。年齢によっても違う。当然ながら親子でも違う。それでも父親は気付かない。我が子の受容能力を超えた負荷をかけてしまっていることに。「厳しくするのも、オマエのためだ」と思っている。

「オマエのため」というセリフが口から出そうになったのなら、すでに黄色信号である。「オマエのため」はたいがいにおいて「自分のため」なのである。


おおたとしまさ=文
「子供が“パパ〜!”っていつでも抱きついてくれる期間なんてほんの数年。今、子供と一緒にいられなかったら一生後悔する」と株式会社リクルートを脱サラ。中学受験を親子にとっていい経験にする方法、子育て夫婦のパートナーシップ、男性の育児・教育、無駄に叱らない子育てなどについて、執筆・講演を行う傍ら、新聞・雑誌へのコメント掲載、メディア出演にも対応している。著書は 『ルポ塾歴社会』、『追いつめる親』、『名門校とは何か?』など50冊以上。近著は『開成・灘・麻布・東大寺・武蔵は転ばせて伸ばす』 (祥伝社新書)

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