職場の20代がわからないVol.10
30代~40代のビジネスパーソンは「個を活かしつつ、組織を強くする」というマネジメント課題に直面している。ときに先輩から梯子を外され、ときに同僚から出し抜かれ、ときに経営陣の方針に戸惑わされる。しかし、最も自分の力不足を感じるのは、「後輩の育成」ではないでしょうか。20代の会社の若造に「もう辞めます」「やる気がでません」「僕らの世代とは違うんで」と言われてしまったときに、あなたならどうしますか。ものわかりのいい上司になりたいのに、なれない。そんなジレンマを解消するために、人材と組織のプロフェッショナルである曽和利光氏から「40代が20代と付き合うときの心得」を教えてもらいます。
「職場の20代がわからない」を最初から読む 「若者の恋愛離れ」は本当? アンケート調査は多面的に見たほうが良い
20代の若者の嗜好について、さまざまなアンケート調査がありますが、そこではよく「若者の××離れ」として、我々オッサン世代であれば必死に飛びついていた欲望の対象に対して、若者がそれほど興味関心を持たなくなった、離れていっているという結果が出ています。
例えば、「クルマ」や「お酒」、「海外志向」などから若者が離れているとされており、そのうちのひとつが今回のテーマの「恋愛」です。我々オッサン世代(今の30代、40代以上)は成人時に6割以上の人に恋人がいたが、今の20代は4割しかいなかったという調査もあります。しかし、20代は直近の記憶ということもあり正確だが、オッサン世代は大昔の記憶を「盛っている」可能性もあるでしょう(少なくとも私を含め、私の周囲には6割もいなかったはず……)。
一方、若者の恋愛離れは底を打ち、成人時に恋人がいる人の比率も上昇してきているという調査もあり、どちらが真相かはあまりはっきりしません。恋愛ドラマの視聴率がなかなか取れないというのも、恋愛適齢期をとうに過ぎ去ったオッサン世代がテレビのメインの視聴者になるにつれ、若者の恋愛事情を見せつけられてもムカつくだけでつまらないと考えれば当然で、これが若者の恋愛離れと言えるかは微妙です。
「恋愛をしたい」と思う若者の絶対数は、昔からあまり変わらない
そんなことから、私は、「恋愛」についてだけは、「離れている」「興味関心がなくなってきている」というのはやや疑問に思っています。そもそも生殖本能に紐づくものですから、時代が変われども、そんなに簡単に「恋愛したくない」とはならないのではないでしょうか。私の経験でも、この四半世紀に渡って新卒の採用面接をしてきて、「一番頑張ってきたこと」を「恋愛」だとする学生はいまだたくさん存在します(面接で恋愛の話をするのはできればやめて欲しいのですが……)。
さらに、「出生動向調査」(国立社会保障・人口問題研究所)によれば、1982年から2015年にかけて「異性の恋人がいる」という男性は、22%(1982年)→22%(1987年)→26%(1992年)→26%(1997年)→25%(2002年)→27%(2005年)→25%(2010年)→21%(2015年)と、ほぼ変わりません。百歩譲って、若者の低所得化や趣味の多様化等々の背景から、実数としての恋愛経験は減っているのが事実だとしても、その制約条件がクリアできれば、結局は我々オッサン世代と変わらない、恋愛に対する関心があるのではないでしょうか。
仕事よりもプライベートを優先できる社会になっただけでは?
さて、そんな中、タイトルのようなことを職場の20代に言われたら、「若者恋愛離れ論者」のオッサンは、「おうおう、草食男子が慣れないことをするから、ドツボにはまったんだな。どれどれ、俺の豊富な恋愛経験から、ひとつアドバイスでもしてやるか」などと思うことでしょう。しかし、それはきっとやめたほうが良いでしょう。オッサンたちは、「若者は恋愛に臆病」などと思い込みたいのでしょうが(それで「勝った」と思いたい)、おそらくそれは高い確率できっと妄想です。時代遅れの恋愛テクニックなどを披露しても、表では神妙な面持ちでうなづいていたとしても、あとから裏で笑われるだけです。
別に若者はオッサンに人生の師、恋愛の師としてアドバイスなどを求めてなどいません。こういう発言が出るのは、以前なら「プライベートを仕事に持ち込むな」と言われていたのが、ワークライフバランスとか、働き方改革の風潮の中、「プライベート>仕事」となってきている昨今では、プライベートが理由で仕事に支障をきたしているということを言いやすい社会になったからではないかと思います。「育児や介護があるので、ワークスタイルをこう変えて欲しい」とか「ペットが病気だから仕事休みます」というのと同じ根っこのものです。若者にとっては、失恋も風邪も同じようなものなのでしょう。
深入りせず、さらっと流せば良い。若者の恋愛に役立てるオッサンはいないと自覚せよ
ご家族の病気など、家庭の事情で仕事に影響が出た場合、「それはどんな病気?」「深刻さの度合いは?」などと聞くのは憚られますよね。プライベートな問題は、それで「仕事を休む」と言われたとしても、必要以上には深入りしてはいけないというのが暗黙の了解です。例え、それが嘘かもしれなくとも、「身内に不幸があった」と本人が言っているのに、「それは本当か?」と疑うような目を向けるのはNGでしょう(本当なら極めて失礼な話ですし)。
「失恋して仕事が手につかない」と言ってくる職場の若者への対応も、同じです。オッサン世代の感覚からすると、「失恋した」と言ってくれるからには、上述のように「もっといろいろ聞いて欲しい」と誤解しがちですが、違います。けして、「どんな彼女だったんだ?」「どれくらいひどい失恋だったのか?」などと、根掘り葉掘り聞くと、「人のプライベートに土足でズカズカ入ってくる、デリカシーのかけらもない人だ」と非難されてしまうでしょう。ですから、「ああ、そうなんだ。大変だったね。休まなくても大丈夫か」などと、サポーティブな雰囲気は維持しつつも、深入りせずに流せば良いのです。そして、「今は、ちょっと負荷をかけないがいいんだな」と念頭において、仕事の割り振りを考えたりすれば良いだけです。くれぐれも、「俺の出番だ」などと思わないで下さい。若者のプライベートに役立てるオッサンなど、今どき、ほとんどいないのですから。
文=曽和利光 株式会社 人材研究所(Talented People Laboratory Inc.)代表取締役社長 1995年 京都大学教育学部心理学科卒業後、株式会社リクルートに入社し人事部に配属。以後人事コンサルタント、人事部採用グループゼネラルマネジャーなどを経験。その後ライフネット生命保険株式会社、株式会社オープンハウスの人事部門責任者を経て、2011年に同社を設立。組織人事コンサルティング、採用アウトソーシング、人材紹介・ヘッドハンティング、組織開発など、採用を中核に企業全体の組織運営におけるコンサルティング業務を行っている。