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2021.05.05

あそぶ

建築家・谷尻 誠の「自然の中での能動的な体験」を最優先するキャンプスタイル

月曜午前の仕事はなるべくリモートワークだけにする。「そうすれば土、日曜と2泊はできますからね」と、ここ数年キャンプにハマっている谷尻 誠さんは言う。
2泊にしたい理由を「1泊だけだとキャンプは何かと忙しなく終わってしまうから」と話し、「実は今週末から3週続けてキャンプなんです」と楽しげに笑った。目的地は、山中湖、地元の広島、山梨県同志村の各キャンプサイトへ行く予定なのだと答える。
精力的にいろんな場所でアウトドアを楽しんでいる様子が伝わってきた。
建築家 谷尻 誠●1974年、広島県生まれ。建築家。建設設計事務所SUPPOSE DESIGN OFFICEの代表であり、絶景不動産、CAMP.TECTS、toha、DAICHIをはじめとする多分野で開業、活動の幅も広がっている。また大阪芸術大学准教授なども勤める。
そんな谷尻さんのキャンプスタイルは、多くの場合においてファミリーキャンプ。そもそも始めたきっかけが「子育てには自然のなかで過ごすのがいい」とキャンプ好きの友人に誘われたことにある。
「東京はとても便利な場所で、頭を使わなくても快適に過ごせます。それは子供の遊びに関しても同じで、公園やYouTubeなど多くの物が作られ用意されています。しかしそのような環境では誰かが用意した物を買ったり借りたりして遊ぶ遊び方しか覚えなくなる。子育てをしていて、そこに危うさを感じていました。
一方で自然は不便。そのなかでどう遊ぶのか、そのすべてを自分で考える必要がありますし、きっと不便益があるだろうと。そう思ったんです」。
建築家・谷尻 誠が考える「自然の中での能動的な体験」を最優先するキャンプスタイル
設営したり食事を作ったりと、キャンプは何かと忙しい。その忙しさがハードルになっているのではないか? そう考え、「自然の中での能動的な体験」を最優先に、宿泊、商業、スパ、サウナなどの企画開発や運営を行うのが「DAICHI」。現在、静岡県御殿場市にも計画中。山の高台と景色を楽しむための家として造られ、ソファに腰掛けながら富士山の絶景を独占できるイメージで進行中。
不便ゆえの利益。それは大人も等しく得られる物だと考える。
「クリエイターが考えられなくなったら無用の長物です。クリエイターであり続けるために、不便な環境で自分に負荷を与えながら成長し続けたいという思いもあります」。
結果、谷尻さん自身も子供と一緒になり、眼前に広がる自然のなかで“能動的”に遊ぶようになっていった。テントを設営し、川で遊び、火を熾して焚き火を楽しみ、美味しい食事と酒を味わいながら、黄昏れていく空と風景に魅了される。
そうした都会では味わいがたいラグジュアリーな体験は仕事も生み出した。手付かずの自然の中に建物を作り、「外なのにLDKがある」というような施設での宿泊などを提供する「DAICHI」。
今以上にキャンプ食を豊かにするために調理環境を整えようと、テーブルをはじめとしたキッチンまわりの商品を開発していく「CAMP.TECTS」がそれだ。
もはや公私ともにキャンプ色に染まりつつある谷尻さん。こだわりも生まれ、独自の見識は愛用ギアにも反映される。そのセレクションには、豊かな自然の景観に調和する、「形や色が風景に馴染む物」を軸に厳選された良品が揃っている。
 
小山内 隆=文


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