Camp Gear Note Vol.29
2020.01.31
LEISURE

「ヒルバーグ」が“テント界のロールスロイス”たる理由

連載「Camp Gear Note」
90年代以上のブームといわれているアウトドア。次々に新しいギアも生まれ、ファンには堪らない状況になっている。でも、そんなギアに関してどれほど知っているだろうか? 人気ブランドの個性と歴史、看板モデルの扱い方まで、徹底的に掘り下げる。

ヒルバーグ

数多のブランドが凌ぎを削るテント業界において、使い古された言い回しではあるが、「テント界のロールスロイス」と評される名ブランドがある。

独創的な構造が生み出す美しいフォルム。ガイラインや小さなパーツひとつに至るまで、オリジナリティを貫く徹底したこだわり。そう、世界中のアウトドア愛好家から絶大な信頼を受ける「ヒルバーグ」である。

「ヒルバーグって、お値段の高いテントでしょう? テントなんてどれも大差ないんじゃない」とお考えのあなた。ちょっと待った。あなたのテントに対する認識を変えてみせるので、5分だけお時間拝借させていただきたい。

ヒルバーグ

今回はその実力のほどを伺うため、ヒルバーグ日本総代理店を務めるA&Fの昭島アウトドアビレッジ店を訪れた。

「うちでもたくさんのテントブランドを扱っていますが、ヒルバーグをひと言で言うならば、細部にまでこだわりが詰まった最高級のテントブランドってことです」とは、副店長を務める水野顕真さんの弁。

では、具体的になにが特別なのかを説明していただこう。

ヒルバーグ
副店長の水野さん。昭島店では、購入前に敷地内で試し張りもできるそう。
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ヒルバーグ一家が作り上げた特別な構造の利点

ヒルバーグ
創業当初は三角型のテントを販売していた。今期、このフォルムをリバイバルした新作がリリース予定。

その理由を探るためには、まずブランドの歴史を振り返ってみる必要がある。ヒルバーグは、1973年、当時森林管理官をしていたBo Hillebergと妻のRenateの手により、スウェーデンでスタートしたテント専門ブランドである。

ヒルバーグ
右端のBoが設計と営業を担当。左のRenateが縫製担当。娘のPetraが現在会社を継いで社長を務めている。

Boは、従来のテントがインナーテント(テント内部の部屋にあたる部分)を張ってから、レインフライシート(外側に張る屋根や壁になる部分。アウターフライとも呼ぶ)でインナーを覆わなければいけない点に強い不満を持っていた。強風時はふたつの作業をしてテントを設営するには時間がかかるし、雨の日はアウターを張るまでにインナーを濡らしてしまうこともあるからだ。

ヒルバーグ
ヒルバーグのテントは、ご覧のようにアウターにインナーを連結させて吊り下げる構造が採用されている。

「そこで彼が考え出したのが、アウターとインナーを同時に張れるよう、吊り下げて連結させる独自構造でした。この構造により、ワンステップで張れるので、設営の手間が大幅に短縮できます。つまり誰でも簡単に立てられるんです。アウターとインナーを分割して単体で使えることもポイントです」。

また、隙間があることでインナーは常にドライに保てるし、外気温が低い日でも空気の層があるおかげでテント内は比較的暖かい。暑い日にはベンチレーター(換気口)を大きく開けられるので、通気性も抜群だ。

この画期的かつ快適な独自構造こそが、ヒルバーグが特別なテントである所以だ。2本のポールを挿すだけで設営は誰でも簡単に完了、そしてとにかく快適なラグジュアリーテントなのである。

ヒルバーグ
ご覧のように、インナーを外して、アウターだけをシェルターとして使うことも可能。
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独自開発のテント生地が圧倒的に劣化しづらい秘密

独自開発の生地「ケルロン」も、ヒルバーグの特徴を象徴するディテールだろう。シリコンを含んだツルツルの生地は、風や雨をよく弾き、摩擦にも強い。さらに従来のナイロン生地とは比較にならないほど高い引き裂き強度を誇る。

ヒルバーグ
モデルによって使われる厚みは異なるが、高い耐久性と引き裂き強度は共通する特徴である。

「生地のサンプルがあるので、思い切ってペン先を突き刺してみてください」。

水野さんに言われるがままに、恐る恐るボールペンを刺してみる。当然穴が空いたように見えたのだが、生地を引っ張ってこすり合わせるとあら不思議。穴が完璧に塞がってしまった。

「一般的な防水性生地だと裏面のコーティングに穴が空いてしまうのですが、この生地はシリコンを繊維に染み込ませて防水性を確保しているため、裏にコーティング面がない。なので、穴を開けても破ける面がなく、繊維自体も切れないので元に戻るわけです」。

これはすごい!

ヒルバーグ
ボールペンを刺した穴が、跡形もなく元通り。

また、生地を幾重にも折り返して縫い合わせることで、縫い目からの浸水をブロックし、縫製箇所を覆うシームテープ(縫い目からの浸水を防ぐために貼る部材)を省くことにも成功。さらに縫製作業中は、針が熱を帯びて縫い穴が広がらないよう、冷却のために風を当てながら行うという徹底ぶり。

テントや雨具の故障は、防水性を持たせるためのコーティングや縫い目に貼ったシームテープが劣化して剥がれることが主な原因となる。しかし、ヒルバーグのテントにはそもそも劣化して剥がれるもの自体がない。必然、経年劣化の心配が少なく、寿命の長〜いテントが出来上がるのだ。

ヒルバーグ
ピッチの整った細かいチェーンステッチが、ブランドのクオリティを物語っている。
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ひと張りひと張りに、職人のプライドが縫い込まれている

ちなみに、ヒルバーグ製品は、スウェーデンからバルト海を挟んだ対岸にあるエストニアの自社工場で作られる。

「エストニアは日本と同様、職人気質で手先の器用な人が多い国だそうです。テントひと張りの縫製は、ひとりの職人が通しで担当します。テントの内側を見てください。担当した職人の名前を入れたタグを縫い付けてあるんです」。

ヒルバーグ
1997年から現在まで、すべての製品はエストニアの工場で仕上げられている。

ツルツルとした特殊な生地を縫うためには、熟練の技術が必要不可欠。気の遠くなるほど丁寧な仕事を経て出来上がったテントに付けられたタグからは、「どうだい、俺が縫ったテントは。調子いいだろ?」と自慢げな職人の声が聞こえてきそう。作った個人の名前が製品に印字されているテントは、たぶんヒルバーグだけ。それだけ製品に携わる個々人がプライドを持って仕事をしている証拠だ。

ヒルバーグ
ひと張りごとに、縫製を担当した職人の名前が縫い付けられている。店頭で見比べてみる?

昨今は重量の軽さやコンパクト性を売りにしたモデルが人気を集めているが、それらに比べて圧倒的に使用用途を選ばない、汎用性の高さも魅力だろう。

長年にわたり、世界中のさまざまなエクスペディションに挑むために研究開発が重ねられた結果、彼らのテントは極限の状況下に対応できる耐久性と使い勝手の良さを獲得してきた。これは冒険家だけが享受できるメリットではない。私たちライトユーザーが、登山やキャンプで使う際にも、誰でも感じられる快適性や使いやすさにもつながっている。

ヒルバーグ
北欧の厳しい環境下で作られたテントは、冒険家たちからの信頼も厚い。

さらに、細かな説明は省くが、ポールや張り綱などの細部パーツに至るまで、同様の徹底したこだわりを持って構成されている。とにかく、「諦める」とか「手を抜く」という概念を知らないブランドなのだ。

当然、お値段はそれなりにはなる。しかし、この事実を知った今、あなたはまだこのテントを高いと感じるだろうか?

次回後編では、彼らのテントのバリエーションをご紹介する。お楽しみに。

ヒルバーグ

[問い合わせ]
エイアンドエフ
03-3209-7575
http://hilleberg.jp/

池田 圭=取材・文 矢島慎一=写真

# Camp Gear Note# キャンプ# テント# ヒルバーグ
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