OCEANS

SHARE

2019.12.02

あそぶ

“キリンジ”と“KIRINJI”。彼らが語る変化とこの先

知らなきゃ男が廃るが、知ってりゃ上がる。気にするべきは、顔のシワより脳のシワ。知的好奇心をあらゆる方向から刺激する、カルチャークロスインタビュー。
1996年、高樹と泰行の堀込兄弟がキリンジを結成。2013年4月に堀込泰行が脱退する。同年夏、堀込高樹(写真左)を中心にしてKIRINJIをスタート。
1996年、高樹と泰行の堀込兄弟がキリンジを結成。10枚のオリジナルアルバムを発表したのち、2013年4月に堀込泰行が脱退する。同年夏、堀込高樹(写真左)を中心にしてKIRINJIをスタート。千ヶ崎学(写真右)、田村玄一、楠均、弓木英梨乃と活動している。
先頃発売されたKIRINJIの最新作『cherish』を聴いて“ずっと追いかけておくべきだった”と地団駄を踏んだ。
正直に告白する。彼らの音源を聴いたのは久しぶりだった。2013年に堀込泰行が脱退する前は何度かインタビューもしたし、高い音楽性のエバーグリーンなポップスは大好きなジャンルでライブもに何度か足を運んでいた。だが現体制になってからは勝手に卒業してしまっていた。
そんな状況で聴いたアルバムは、サウンド的にはファンク、ヒップホップというダンスミュージックがベースにある。そこにKIRINJIならではの歌が乗っているのだが、歌詞の内容はピザとハンバーガーのどちらを食べたいか悩む話から、失恋した女の子の切ない心情を歌ったものまでと変幻自在なうえ、ボーカルのテイストもいわゆる“歌もの”とは何かが違う。前衛的ではないが、斬新で新鮮、しかも心地良いのだ。
その秘密を、自他ともに認める低音フェチのベーシスト、千ヶ崎学(写真右)は次のように教えてくれた。「音の土台は前作同様にスムーズなグルーヴ。そして、そこに乗せる音や歌といったウワモノは、グッとトーンを抑えながら生々しさを大事にすれば面白いものができると思い、本作を作りました」と。
リーダーであり全曲の作詞・作曲を務める堀込高樹が千ヶ崎の言葉を受けてこう続ける。「ファンクやヒップホップのノリでJ-POPの歌をそのまま乗せると格好悪いものができる恐れがあったんです。なので譜割りや言葉選びは非常に慎重にやりましたね」。
つまり、本作は確信的かつ野心的な試みであり、それをメジャーデビュー20年以上のキャリアをもって音に昇華させた上質な作品なのだ。
改めて、筆者が聴いていた“キリンジ”と今の“KIRINJI”は似て非なるものだ。堀込も音楽との向き合い方に関して「昔は自分がいいと思うものがいいと思っていたけど、今は世の中の人が何が好きで何が嫌いか、どこまでは伝わって、どこからが伝わらないのかがわかってきた。1人よがりじゃなく音楽を作っています」と変化を口にする。
そんな堀込は50歳。今後の展開について聞くと、 「僕がこの業界で生き残ってこられたのは、歌詞やメロディが風変わりだから。やはりソングライティングは極めたいですね」。それに千ヶ崎が「KIRINJIの本体は高樹さんの音楽的興味。これからも伸び伸びとやってもらえば面白いものができると思います」と言葉を添えた。どうやら彼らは、この先も野心的でハイクオリティな音を放ってくれそうである。
『cherish』
『cherish』KIRINJI
KIRINJI/ユニバーサル/3000円
2018年、キリンジ時代を含めて迎えたメジャーデビュー20周年を経て大きな節目を越えてリリースした最新アルバムがこちら。生音とプログラミングが融合したサウンドと卓越した歌詞が絶妙に溶け合う1枚。
PAK OK SUN(CUBE)=写真 ジョー横溝=取材・文


SHARE

次の記事を読み込んでいます。