カラダ笑う薬膳 Vol.5
2019.11.18
HEALTH

コホン、クシュン! 風邪の気配を感じたら「レンコン入り豚の角煮」で潤いを

カラダ笑う薬膳●まだまだ老けちゃいないけど、若くもない。37.5歳ってそういう年齢。昔と同じように食って飲んで遊んだ朝は、昔と同じようには起きられない。いろんな曲がり角で悩める37.5歳は、中医薬膳をマスターする“薬膳ママ”の店に今日も行く。

都内某所。飾り気はないが、温かみのある風情。ちょっと一杯ひっかけるにはちょうどいいおばんざい屋がある。あるのは、5人ほどが掛けられるカウンターのみ。旨いってのは当たり前なのだが、ここの女将がまたヒネリが効いていていい。
 
人呼んで“薬膳ママ”。
 
この歳にもなれば起きる体のちょっとした不調を、会話で引き出した情報から、料理で和らげてくれるんだから参っちゃう。「びえーっくしょい!」と、鼻をすすりながら暖簾をくぐるのは、常連の男。よく見ると、鼻の下につーと伸びているのは……え、鼻血?

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ダミ声、くしゃみ、風邪引き前の症状に効く一品

ママ いらっしゃい。

 お゛、おゔ、マ゛マ゛、元気ぃ゛?

ママ あなたが元気じゃないわね、確実に。どうしたの、声かすれちゃって。しかも、ちょ、ちょっと、鼻の下、何それ、鼻血? はい、ティッシュ。

 う゛、嘘だろ? (拭き拭き)お、本当に出てるよ。ありがとう。びえーっくしょい!

ママ かすれ声に、鼻血にくしゃみって、随分賑やかねえ。

 本人はい゛たって元気よ゛。今日だって外回り5軒のバリバリなんだから゛、コホン。

ママ 仕事がご多忙なら何よりだけど、咳まで出てるじゃないの。

 言われてみればそうだわ゛、ォホン。薬膳料理の出しがいがあるでしょ。とりあえずビール。

ママ 今日は体が冷えちゃうから、ぬる燗にでもしておけば?

 あ゛、そう? それも悪くないね、お願い。

ママ 最近、めっきり気温が下がってきたし、乾燥もしてきたでしょ。本格的な風邪を引く前が肝心なんだからね。

 風邪を引く前か。確かに最近、喉がちょっと痛かったり、咳き込んだりしてるも゛んな゛、コホン。

ママ 今ごろ気づくなんて、だいぶおめでたいわね。

 ラグビー日本代表チームの応援しすぎなんだと思ってた。家で。

ママ お茶の間で声枯らすまで応援って。

 ゴホン、俺も元ラガーマンだからさ。

ママ 本当? 最近、うちの店にも増えてるけど、小太りの自称「元ラガーマン」。今、それ言ったらモテると思ってない?

 ちょっと待ってよ。スクラムの鬼だったんだから。高校時代は花園直前よ。

ママ ただの固太りじゃなかったのね〜、失礼。今日はそうね、「豚の角煮」あたりからどう? おすすめで、ほら、カウンターにたっぷり作ってあるから。

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この豚の角煮に入っている意外なアレ

風邪の気配を感じたら「レンコン入り豚の角煮」で潤いを

 お、うまそうだね。よろしく頼むわ。最近、ラガーマンの血が騒いで、筋トレ始めたからタンパク質は大歓迎。

ママ そうなの? 引き締まっては……なさそうだけど。

 2週間くらいだから、まだでしょう。

ママ はい、角煮ね。ぬる燗も一緒にどうぞ。

 ありがとう。お、煮卵ね、これこれ。あと……、レンコン入ってる?

ママ そこがポイントなの。

 なんで?

ママ から咳、くしゃみ、のどの違和感、鼻血。これ全部、秋に起こりがちな「燥邪」と言われる症状ね。

 俺、“全部のせ”じゃん。

ママ 読んで字のごとく、「乾燥の邪気」で、体の潤いを奪うもの。中医学では、乾燥に関するトラブルは、だいたい「燥邪」にカテゴリーされるわけ。だいたい風邪を引く前の無自覚的な症状が、これにあたるの。

<今晩の薬膳用語①>
燥邪(そうじゃ)=中医学における、人体に悪影響を及ぼす変化「外邪」のうち、代表的な6つを「六淫の邪気」と総称。乾燥にまつわるトラブルが多い「燥邪」はそのうちのひとつ。秋との関連性が強い。潤いや津液を奪ったり、バリアー機能を低下させたりする。

 

 

 でもさ、潤いって、水飲んだり、化粧水つけたりすればいいんじゃないの?

ママ うーん。もちろん悪くはないけど、いずれも一時的な効果しか期待できないかも。中医学では医食同源だから、適した食べ物を摂取して、体の中から変えていくという考えね。それが薬膳なのよ。

 で、このレンコンが「燥邪」に効くってわけだ。

ママ そういうこと。燥邪は、「肺」の機能が衰えると強く影響を及ぼすのね。レンコンは、その「肺」へ作用する豚肉や卵を補う食材ということ。トッピングしている松の実も肺に作用するの。

<今晩の薬膳用語②>
肺(はい)=中医薬膳の考え方のひとつとなる「蔵象学説」で記される「五臓六腑」の「五臓」のひとつ。これまでに登場した「肝」「腎」に加え、「心」「脾」の5つからなる。気を司り、水液の代謝を調整し、気血の運行も調整して、外邪の侵襲にも抵抗する。また、鼻と大腸とも関係が深い。

 
 肺って、酸素を呼吸によって吸収するあの臓器の?

ママ 中医学では、西洋医学の肺と少し意味が違うの。「五臓六腑に染みわたる」の五臓のうちのひとつで、簡単に言うと、呼吸や体液の循環を司る機能の総称ってところ。今度、おいおい話すけど、人間の内部で主に5つの機能が互いに影響しあっているという考え方なのね。

 ふーん。ちょっと興味が出てきたよ、中医学。スクラムも、ひとりひとりが頑張るだけじゃダメだから、なんだか似てる。

ママ 我田引水が過ぎるんじゃ……。あ、でも、それで言うと食材もスクラム組んでるわ。豚肉が持っている「滋陰」の効能は潤いをもたらすうえに、それ自体でも肺への作用を強化するの。それを「補五臓」といって、基本的に滋養強壮に効果がある食材の「レンコン」は、五臓すべての機能を助ける働きがあるから、がっぷり四つなのよ。

<今晩の薬膳用語③>
滋陰(じいん)=肌や体内の乾燥を改善し、「津液」を補い、体に潤いをもたらす効果のこと。
 
<今晩の薬膳用語④>
補五臓(ほごぞう)=五臓の働きを助ける効能。卵のほかに、ブロッコリーやキャベツなども、該当する。


 四つは、相撲だけどね。まぁさておき、卵はいわばユーティリティープレーヤーなんだね。なんでもできるナンバーエイトってところかな。なるほど〜。ホント、薬膳って「ワン・フォー・オール、オール・フォー・ワン」じゃない? ますます気に入った! 角煮、お代わり!

ママ いくら筋トレしてるといっても、食べ過ぎは注意してね。

 

■薬膳ママ 小池美枝
アール・ド・ヴィーヴル代表。国際中医薬膳師。中医薬膳茶師。中医薬膳の講師や執筆のほか、ブランドコンサルティングやPR業務も手掛ける。かつて、某スイス時計ブランドのPRを長年務めた経歴もあり、年に一度のバーゼル ワールドでは「小池さんの手作りおにぎり」が、取材者たちの間で名物になった過去も持つ。

※なお、おばんざい屋は架空のお店です。本当にこんな店があったらなぁ。

山本 大=写真 髙村将司=文

# レンコン# 薬膳ママ# 豚の角煮
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