「Tシャツは男の快楽だ」特集 Vol.9
2021.06.05
FASHION

「利益が最大目標ではない」。イコーランドが目指す持続可能なファッションの未来

2018年8月に生まれたばかりのサステイナブルなブランド「イコーランド」。その最終目標はアパレル業界における持続可能な“プラットフォーム”を作ることだという。

代表取締役の松井智則さんと生産責任者の坂田英一郎さんを迎え、その真意を伺った。

 

イコーランドはブランド名ではなく村の名前だった⁉︎

サステイナブルなブランド「イコーランド」が目指す“平等な村作り”とは
代表取締役の松井智則さん。ブランドやメーカー、地方自治体のPR事業を展開する「PR01.」の代表も務める。

イコーランドを運営する株式会社ワンオーの代表取締役、松井智則さんはこう言った。「村をつくりたかったんです。これからの地球に必要なものを生み出す、イコーランドという村を」。一瞬混乱した。村という言葉に頭がついていかなかったのだ。

松井さんはわかりやすく村と例えてくれた。だがもっと堅い言葉遣いで言えば、イコーランドの最終的な目標は、サステイナブルな産業を生み出す“プラットフォーム”になることだという。

ピンクのTシャツはコールドプレスジュースの搾りかすであるビーツを、ネイビーはログウッドを染料としている。各9680円/イコーランド トラスト ファッション (イコーランド シブヤ 03-6805-0903)

素材や生地、染色方法の開発。キュレーション型店舗「イコーランド シブヤ」のオープン。行政とともに構築した余剰在庫専門のECモール「シブヤ ファミリー セール」のローンチ。イコーランドは、今まさにスタートダッシュをかけているところなのだ。

プラットフォームとなるための初めの一歩が服作りであり、ファッションブランドとしてのイコーランドの立ち上げだったのである。

こうした古い機械を用いて高品質な服作りを行うことも「信用」のひとつ。

「イコーランドの服は“村の名産品”だと思ってもらえたらいいかもしれません。ブランド名はEQUAL(等しい)とLAND(場所)を組み合わせた造語です。

ファッション業界に携わるすべての人々、つまり作り手、売り手、買い手が平等な立場でいられる世界をつくりたかった、ということなんですよ」(松井さん)

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土に埋めればいずれ自然に還る「ボタニカル・ダイ」の服

[左]モックネックの長袖Tシャツは今季の新作。高級インド綿の50番手双糸を用いた、滑らかな素材感が特徴だ。ケールの搾りかすから色素をとり染色。1万3200円/イコーランド トラスト アンド インティメイト(イコーランド シブヤ 03-6805-0903) [右]付属の「信用タグ」。素材生産者からデザイナーまで、製品作りに携わったすべての人たちの署名を印刷。

服作りは確かにイコーランドのいち側面だが、現状最も重要な役割を担う側面であることは間違いない。服作りの哲学は「信用」であり、その象徴が製品に付けられた長いタグ。糸を紡いだ人、パターンを引いた人、縫製を担当した人など、その服の生産に関わった人の署名が印刷されている。

「映画のエンドロールにも市場で売られている野菜にも、制作者や生産者の名前が書いてありますよね。客はその名前を見たとき、『確かに存在する、誰かが作ったものなんだ』と認識します。ファッションも同じで、誰が作ったのかをちゃんと表示する。それが信用だと思うんです」(松井さん)

[左]高級ブランドの余剰在庫だったラムレザーを使用したライダーズジャケット。6万500円 [右]世界的スポーツブランドの余剰在庫となっていた生地を使用したスウェット&スウェットパンツ。裏毛の優しい肌触りが魅力。スウェット1万7050円、スウェットパンツ1万7600円/すべてイコーランド トラスト ファッション (イコーランド シブヤ 03-6805-0903)

ファッション業界においてこうした表示はきわめてまれ。デザイナーは別として、服作りの土台を担う人たちの名が表に出ることはなかった。だが彼らは職人としての誇りを胸に、誠実なモノ作りに精勤する人々だ。そんな彼らに光を当ててはばかられることなど、何ひとつあろうはずがない。

さてイコーランドの服はどこがサステイナブルなのか。ポイントのひとつが、「素材の余剰在庫」による服作りだ。

タイの工場から、ラグジュアリーブランドが残したデニムとチノの素材を調達する。韓国の工場から、デザイナーズブランドが残したレザーを調達する。クオリティは抜群だが活用されなかった素材、そこに着目したのだ。生産部門の責任者である坂田英一郎さんが補足してくれる。

生産責任者の坂田英一郎さん。服作りの素材はすべて、坂田さんの目と手で検証したものだけを使用。

「現在、イコーランドで使う素材は大きく3つに分けられると思います。1つが世界中に眠っている、ファッション業界の余剰在庫と呼ばれる素材。2つ目が新たに開発したサステイナブルな素材。そして3つ目が古着を再利用した素材です」。

実に40年にわたりキャリアを積んできた坂田さん。多くのブランドの企画やOEM(他社製品製造)に携わり、自身のブランドを運営していた時期もある。そんな彼が新たに開発した素材がある。

「洗濯機で洗えるカシミヤとシルクです。カシミヤジャージーは、生地の段階で特殊な熱加工を施すことで縮みを防ぎます。

シルクジャージーは、糸を作る前にセリシン(シルクを構成するたんぱく質のひとつ)を一度分離し、改質したセリシンを再び吸着させます。この工程によって、洗濯機で洗っても硬くならないんです」(坂田さん)

[左]洗濯機で洗えるカシミヤジャージーを用いたレディスのカーディガン(右)と、シルクジャージーのカットソー(左)。どちらも乾燥機の利用までOKという画期的な素材。カーディガン2万900円、カットソー2万9700円 [右]オイルドコートの生地を再利用したヘルメットバッグ。古着のコートを裁断し、生地にオゾン加工を施して、独特のオイル臭やべたつきを除去。バッグとして再生させた。2万9700円/すべてイコーランド トラスト ファッション (イコーランド シブヤ 03-6805-0903)

カシミヤジャージーは今はレディスアイテムのみの展開。メンズへの活用も期待したい。ほかにも100%オーガニックコットンのワッフル生地、国内で織り上げたリネン、高級オーガニックインド綿の50番手双糸で作ったTシャツ生地など、サステイナブルな新素材が続々と生まれている。

「将来的には僕らが作った素材で、ほかのブランドにもサステイナブルな服を作ってほしい。時間はかかると思いますが、既に業界内でのプロモーションは始めています。興味を抱かれているブランドさんも決して少なくありません」(松井さん)

染色には「ボタニカル・ダイ」という技術が駆使される。日本古来の草木染めをベースにした技術。一般的には天然染料を20%使用していれば草木染めと呼ぶことができるが、イコーランドでは、特殊な糊で成分を繊維に付着させる独自技術により、天然染料の割合を90%以上に維持している。

「オーガニックコットンの服は、いよいよ捨てるというときも焼却する必要はありません。条例などの規制があり実際は難しいのですが、庭を掘って埋めればいずれ自然に還ります」(坂田さん)

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利益がいちばんの目標ではない

[上]天然由来の原料から生まれた染料。特殊な媒染剤により色のほとんどが生地に吸着し、染色後に流す水は透明に近い。 [左下]ミヤシタパーク内の店舗「イコーランド シブヤ」。服のほか、約2カ月ごとに変わるテーマに準じた食品、コスメ、雑貨などを多数キュレーションし販売する。 [右下]ウコンの搾りかすも染料に。

前述したようにイコーランドはまだ始まったばかりのブランド。立ち上げ1年足らずでコロナ禍に見舞われた。それでも立ち止まることなく、積極的にサステイナブルなチャレンジを続けている。

「ゆくゆくはスーツのオーダーメイドのように、買い手が直接イコーランドの素材を購入して、自分だけの服を作れるようにしたい。

オーダーメイドの服って、誰しも長く大事に着るじゃないですか。大量消費のルーティンから脱却するためには、そんなふうに考え方を変える必要があると思うんです。新たなD2C(※1)プラットフォーム構築のために、やるべきことは山積みです」(松井さん)

「タイの工場と協業して、古着を粉末にして再生糸を作ろうという計画も進めています。いっさい染色などせず、さまざまな繊維がミックスしたままの色合いの糸です」(坂田さん)

利益の一部を寄付している「サーフライダー・ファウンデーション」のビーチクリーン活動。

現在、利益の一部は2つの団体に寄付されている。海を守る活動を行う「サーフライダー・ファウンデーション」と、貧困地域で安全な水を確保する活動を行う「ザ・ウォーター・プロジェクト」だ。

利益を地球環境と社会に還元し、すべてが循環するドネーションプログラムを設計する。このプログラムもまた、イコーランドの目指すプラットフォーム構築のための重要なファクターだ。

イコーランドは今までのビジネスの尺度とは違う視点、違う価値観に依拠するブランドなのだろう。そもそも成り立ちが違う。服を作ってからサステイナブルな視点を得たんじゃない。サステイナブルな視点で服作りを始めているのだから。

「ファッションに限らずどんな事業でも利益の計上は不可欠です。でもどこかで“右肩上がりをし続ける昨対比利益”は不自然だと、ずっと思っていました。

だからイコーランドというプラットフォームにおいては、利益は最優先の目標じゃない。誰もが等しい立場でファッションを楽しめる場所ができれば大成功。こんなことを言ってしまっては、経営者失格かもしれませんが」(松井さん)

EQUALAND イコーランド
創業年:2018年
代表取締役:松井智則
本社所在地:東京・渋谷
店舗:イコーランド シブヤ
従業員数:6名
※数値は2021年5月時点。

Sustainable Keywords
・素材の余剰在庫を活用した服作り
・アパレル業界の課題を解決する“D2Cプラットフォーム”
・利益の一部を還元するドネーションプログラムの設計

※1 D2C
「ダイレクト・トゥ・コンシューマー」の略。製造者と消費者が直接取引を行うという意味の言葉で、しばしばマーケティング用語として扱われる。メーカーが直接消費者に販売するためのECサイトは、D2Cビジネスモデルの代表例といえる。

 

鈴木泰之=写真 加瀬友重=編集・文

# イコーランド# サスティナブル
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