ループウィラーは、我々にとって最も身近である楽な服、スウェットと真摯に向き合うブランドだ。究極の着心地を求め“吊り編み機”にこだわり、今では世界各地で支持されてる。
そんな稀有なブランドが昨年で20年周年を迎えた。スウェット一筋、その軌跡をたどる。
裏毛スウェットに心地良さをもう一度
| 「ループウィラー」代表 鈴木 諭さん 吊り編みスウェットの伝道師。正統派アメカジを愛する鈴木さんにとって、スウェット&デニムは代名詞的スタイル。多くのコラボレーションは、モノ作りに共鳴できた同志の証しという。 |
今でこそ、気持ちいい素材の代表格として広く支持されている裏毛スウェット。20世紀的な大量生産・大量消費が専横する時代の中で、ひとつの「工業製品」となったその服から、いつしか気持ち良さが失われていった。
奇しくもループウィラーは、新たな21世紀という時代の幕開け前夜、1999年に生まれた。
「ブランドに欠かせない“吊り編み機”なんて、当時誰も見たことも聞いたこともない。良さは山ほどあるけれど、言葉で表現するにも限界があった。ブランドを立ち上げてすぐ、知り合いの編集者やスタイリストに見てもらったりもしましたが、『鈴木さん、見た目だけじゃ、なかなかこの魅力は伝わらないよ』なんて、よく言われたものです」と鈴木さんは、立ち上げ当時の状況を述懐する。
作ったはいいがどう売ればいいか、初手から難航を予感させるブランド黎明期であった。
付けた名前は、「ループウィラー」。鈴木さんが、「世界一、正統なスウェットシャツ」を作るべく設立したブランドだ。繊維系の商社マン時代に培った物作りの背景である、和歌山の吊り編みと青森のハイレベルな縫製によって“メイド・イン・ジャパン”を実現している。今でこそ、服好きならば耳にする機会が増えた吊り編み機だが、一体どのようなものだろうか。
「低速編機のひとつですね。生地ができるのは、1時間に約1m程度。ゆっくり編み上げるぶん、ふっくらとした仕上がりになります。現代の機械だと、低速編機の30〜40倍という高速でコンピュータ制御の織機を回します。糸にテンションをかけないと止まってしまう可能性があるので、仕上がりは吊り編み機のようには行きません。
一方で、天然の綿糸が持っている植物本来の力を減衰させず、その中に入っている空気も含めて編み上げるには、低速の吊り編みが最良となるのです。ただし、これには念入りのケアが欠かせない。綿埃が織機に溜まっていくのですが、職人が常に見回りして手作業で取り除くんです」。
こうして生まれたスウェットは、綿本来のふっくらとした風合いを残し、洗うほどに味わい深くなる。
20年間邁進したら、自然と人に恵まれた
鈴木さんが考える最高の背景で生まれた上質なスウェット。プロダクトのクオリティには、絶対の自信を持っていたが、どう売ればいいかの正解を見出せずにいた。
「その頃、ちょうど日本のデニムブランドが英国でものすごく売れているという噂が。ならば、ウチもいけるのではと、知り合いのつてで渡英。ブラウンズやセルフリッジなどのスペシャリティストアへ営業に行ったんです。何度か訪れると、セルフリッジが少し買ってくれました。手応えを感じ始めましたね」。
ここにブレイクスルーが訪れる。折しも、2001年は英国における日本年ということで、セルフリッジが「ジャパンフェア」を催すとの報せを受けて商品を発送。すると、今はなきパリの名店、コレットのバイヤー、サラが店頭で見たとループウィラーの買い付けを申し出たのだ。
「サラからのメールをもらった2週間後くらいには、サンプルを持参しました。コレットも始まって3年目くらいで、これからという時期でしたから、冒険的な意味もあったと思います。ボーンとオーダーしてくれて、度胸あるなぁと(笑)」。
これ以降、人気は徐々に、しかし確実に右肩上がりに。改めて日本における基盤も必要と思い、デザイン集団のグルーヴィジョンズとグラフィックブランドのバンザイペイントとともに中目黒のGBLという共同ビルで、オンリーショップを2002年にスタート。
「彼らには、スウェットにプリントするグラフィックを依頼するなどの親交がありました」。
2005年には、活動拠点を現在の千駄ヶ谷に移転。“GBL時代”以来の知り合いであるワンダーウォールの片山正通さんに店舗デザインを依頼し、本格的な路面店を構える。
そうした流れもあり、同時期にモノ雑誌で組まれたスウェット特集に、和歌山の工場が取材されたことで、「吊り編み機」が日の目を見ることになる。以降、ループウィラーの名はいよいよ日本で全国区となった。
「創業当初からの思いですが、僕らがブランドをやることで、和歌山の工場を発端に、日本の服飾を、モノ作りを復興させたかった。取材されることで働いている人たちにも光が当たり、少しでも誇りに思ってもらえたらと。そういう環境を作ることがループウィラーの使命。だから、ほかのブランドも和歌山の吊り編みをいいと思ったら、どんどん工場を使ってくれたらいいですね」。
その後、ビームス プラスでの取り扱いや、ナイキとのコラボレーションなどを経て、セカンドブレイク状態に。ブランド開始当初に懸念していた「見た目にわかりにくい魅力」は、実際に着られることで、世界に、そして日本に、伝播していった。
「ナイキのとあるスタッフが、ウチの服が置いてあるコレットが取材された雑誌記事を切り抜きしていたみたい。いつか僕らとコラボレートしたいという思いを抱きながら」。
見た目はシンプルながら、けれど、世界でも最高と呼べる品質を自負するループウィラーの魅力は、鈴木さんが予期せぬところでジワリと広がっていった。そこに時代の変化も追い打ちをかける。
「3・11以降、なんとなく価値観が変わり出して、プロダクトが生まれるストーリーやクラフツマンシップなど、モノ作りの本質がクローズアップされるようになったと思います。本当に最近ですね、ようやく認められてきたのかなって思うのは」。
スウェット作りに真摯に向き合ってきた20年。いつしかその周りには多くの人が集まっていた。正統なモノ作りと気持ちいいを追求した結果、多くの人にハッピーをもたらした。ループウィラーの心地良さは、吊り編み機さながらゆっくりと僕たちの心に染み込んでいく。
西崎博哉(MOUSTACHE)、河津達成(S-14)、渡辺修身=写真(人物) 鈴木泰之=写真(静物) 髙村将司、増山直樹、今野 壘、谷中龍太郎、菊地 亮、増田海治郎=文