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2019.11.23

ファッション

「ライダースだけじゃない」。北村信彦さんにとってのロックな黒革とは

黒革のアウター。それはロックンロールの音がするダブルのライダースジャケットを、あるいは映画の中のマフィアな男が着るテーラードジャケットを想像するかもしれない。そんなユースやアウトローのためだけのものではない、まっとうな大人の男が似合う・魅了される理由を、個性派論客とともに提案してみたい。

ロックな黒革を見て思う
ライダースだけが黒革じゃない 〜北村信彦・文〜

僕が初めてレザーを着たのは専門学校生のときで、高校を卒業して最初の年でした。なんとかチケットを手に入れて観たメンズビギのショーでモデルが着ていた革ジャンに憧れたのがそのきっかけ。
それはステンカラーのバイカータイプで、深いブラウンのレザーにブリーチ加工やタイヤで轢かれたような跡がついてるっていう、かなり攻めたデザインだったんだけど、同じものは買えなくて。やむなく古着店で似た革ジャンを探してきて、少しでも似せようと自分でブリーチ剤を掛けました。
[左]ユルい格好のイメージが強いカート・コバーン。革の着方もオルタナティブそのもの。[右]トム・ヨークは革を着ててもやっぱりノーブル。実験的なサウンドとトラッドな装いのギャップ萌え。
[左]ユルい格好のイメージが強いカート・コバーン。革の着方もオルタナティブそのもの。© Michel Linssen/getty images [右]トム・ヨークは革を着ててもやっぱりノーブル。実験的なサウンドとトラッドな装いのギャップ萌え。© Tim Mosenfelder/getty images
中1くらいからロックにハマり、洋楽ばかり聴いていた中で、自分には音楽をやる才能はなさそうだけど、どうやったらミュージシャンたちに会えるだろうと考えて、なんとなくそういう期待をしたのが専門学校に入った動機。あの頃はラモーンズやジョニー・サンダースがライダースを着ていたり、ザ・クラッシュなどのUKのバンドも革ジャンをよく着てましたよね。
だけど、僕はストレートなパンクよりもパティ・スミスとかヴェルヴェット・アンダーグラウンドみたいなインテリめいた音楽に惹かれていて、服装もジャケット型の革ジャンを、ボタンをちゃんと留めて襟を立てて着る感じが好きでした。恐らく、ダブルのライダースの“頑張ってる感”が当時から個人的に苦手だったんです。
1984年にヒステリックグラマーを始めてからは、念願かなっていろんなミュージシャンたちと仕事で会うことが多くなりました。正直、初の店舗ができたときよりもそっちのほうがうれしかったんです(笑)。実際に会った彼らも意外とそんな革ジャンを私服にしていました。ボビー・ギレスピーはシングルタイプを着てたし、亡くなったザ・ストゥージズのロン・アシュトンもそうだったなぁ。
[左]プライマル・スクリームのフロントマン、ボビー・ギレスピー。[右]パンクからヒップホップまで、多彩なルーツを持つ、ビースティズのマイクD
[左]プライマル・スクリームのフロントマン、ボビー・ギレスピーは、フロント全閉めの英国流ナードな着こなし。© Dave M. Benett/getty images [右]パンクからヒップホップまで、多彩なルーツを持つ、ビースティズのマイクD。スポーティなトラックジャケット型がよく似合う。© Nicholas Hunt/getty images
今の40代後半から60代くらいの世代って、いちばんファッションにお金を使ってきたと思うし、自分はこのジャンルだと決めたらそこにあるガチガチのルールの中で育ってきた人たちだと思います。ロックだったらダブルのライダースだ! と言う人もいるだろうけど、そうやって固定観念で勝手に枠を決めるのはすごくもったいない。今の20代はヒップホップがベースでも、過去の音源を掘る中でロックもアニソンも偏見なく聴いてたりするし、大人もそういうふうに壁を作らないほうがいいと思います。
ちなみに、僕が黒革とロックと聞いて真っ先に思い浮かぶのはキャロル。洋楽かぶれだった僕はずっと避けていたんですが(笑)、いろんな音楽を聴いたうえで彼らを知ると、音もファッションもすごく先鋭的なことをやっていたんだとわかったんです。やっぱり食わず嫌いは、良くないですよね。
北村信彦(きたむらのぶひこ)●1962年生まれ。’84年にヒステリックグラマーを設立しデザイナーに。その当初から変わらない、“音”を感じるデザインを落とし込んだウェアにはファンも多数。


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