「ライダースだけじゃない」。北村信彦さんにとってのロックな黒革とは
黒革のアウター。それはロックンロールの音がするダブルのライダースジャケットを、あるいは映画の中のマフィアな男が着るテーラードジャケットを想像するかもしれない。そんなユースやアウトローのためだけのものではない、まっとうな大人の男が似合う・魅了される理由を、個性派論客とともに提案してみたい。
ロックな黒革を見て思う
ライダースだけが黒革じゃない 〜北村信彦・文〜
僕が初めてレザーを着たのは専門学校生のときで、高校を卒業して最初の年でした。なんとかチケットを手に入れて観たメンズビギのショーでモデルが着ていた革ジャンに憧れたのがそのきっかけ。
それはステンカラーのバイカータイプで、深いブラウンのレザーにブリーチ加工やタイヤで轢かれたような跡がついてるっていう、かなり攻めたデザインだったんだけど、同じものは買えなくて。やむなく古着店で似た革ジャンを探してきて、少しでも似せようと自分でブリーチ剤を掛けました。
![[左]ユルい格好のイメージが強いカート・コバーン。革の着方もオルタナティブそのもの。[右]トム・ヨークは革を着ててもやっぱりノーブル。実験的なサウンドとトラッドな装いのギャップ萌え。](https://oceans.tokyo.jp/wp-content/uploads/2019/11/1912122_05_GettyImages-85364527x.jpg)
中1くらいからロックにハマり、洋楽ばかり聴いていた中で、自分には音楽をやる才能はなさそうだけど、どうやったらミュージシャンたちに会えるだろうと考えて、なんとなくそういう期待をしたのが専門学校に入った動機。あの頃はラモーンズやジョニー・サンダースがライダースを着ていたり、ザ・クラッシュなどのUKのバンドも革ジャンをよく着てましたよね。
だけど、僕はストレートなパンクよりもパティ・スミスとかヴェルヴェット・アンダーグラウンドみたいなインテリめいた音楽に惹かれていて、服装もジャケット型の革ジャンを、ボタンをちゃんと留めて襟を立てて着る感じが好きでした。恐らく、ダブルのライダースの“頑張ってる感”が当時から個人的に苦手だったんです。
1984年にヒステリックグラマーを始めてからは、念願かなっていろんなミュージシャンたちと仕事で会うことが多くなりました。正直、初の店舗ができたときよりもそっちのほうがうれしかったんです(笑)。実際に会った彼らも意外とそんな革ジャンを私服にしていました。ボビー・ギレスピーはシングルタイプを着てたし、亡くなったザ・ストゥージズのロン・アシュトンもそうだったなぁ。
![[左]プライマル・スクリームのフロントマン、ボビー・ギレスピー。[右]パンクからヒップホップまで、多彩なルーツを持つ、ビースティズのマイクD](https://oceans.tokyo.jp/wp-content/uploads/2019/11/1912122_07_GettyImages-156846275x.jpg)
今の40代後半から60代くらいの世代って、いちばんファッションにお金を使ってきたと思うし、自分はこのジャンルだと決めたらそこにあるガチガチのルールの中で育ってきた人たちだと思います。ロックだったらダブルのライダースだ! と言う人もいるだろうけど、そうやって固定観念で勝手に枠を決めるのはすごくもったいない。今の20代はヒップホップがベースでも、過去の音源を掘る中でロックもアニソンも偏見なく聴いてたりするし、大人もそういうふうに壁を作らないほうがいいと思います。
ちなみに、僕が黒革とロックと聞いて真っ先に思い浮かぶのはキャロル。洋楽かぶれだった僕はずっと避けていたんですが(笑)、いろんな音楽を聴いたうえで彼らを知ると、音もファッションもすごく先鋭的なことをやっていたんだとわかったんです。やっぱり食わず嫌いは、良くないですよね。
北村信彦(きたむらのぶひこ)●1962年生まれ。’84年にヒステリックグラマーを設立しデザイナーに。その当初から変わらない、“音”を感じるデザインを落とし込んだウェアにはファンも多数。
大人にオススメな黒革アウター
TRUCKER JACKET
「マディソンブルー」のジャケット

マイナーチェンジを加えながら継続展開しているビッグシルエットのトラッカータイプ。肌に馴染む仔牛の革を用い、顔料仕上げを省くことで質感を引き立てたもの。その揺らめく身頃は雰囲気満点で、シンプルに着るだけで絵になる。
MA-1
「デラックス」のジャケット

キメの細かいラムレザーにダウンをぎっしり詰め込んだボリューム満点な「LD-1」。金属パーツまで黒でシックにまとめつつ、変形チェッカー柄の裏地がチラッと覗く、ストリートマインド溢れるデザイン。アメカジ好きはここから黒革を始めるのも良し。
STADIUM JUMPER
「ヴァイナル アーカイブ」のスタジャン

普遍的なアワードジャケットの面影を残しつつ、素材は最高級のディアスキンという、これぞ大人のストリートカジュアルという仕上がり。肩が落ちる大きめのシルエットながら、着丈はレギュラーで絶妙なバランス感を追求した。
CARDIGAN
「エイチ ビューティ&ユース」のカーディガン型ブルゾン

極上のカウスエードで裏地はなし、裾やポケットには革の裁断部分をそのまま残したラフなデザインのカーデ型ブルゾン。袖を捲って表革をアクセントにするという着こなし方に。気楽に羽織れる軽やかさは春先にも使えそうだ。
B-3
「チンクワンタ」のジャケット

グレイッシュなボアのおかげで、黒革もマイルドに見える、ミリタリースタイルなレザーの大本命。フライトジャケットらしさはキープしたままで、過剰なボリュームのないモダンなシルエットでつくった極寒時季の一張羅。さらっとシャツに合わせて。
COACH JACKET
「ブルーナボイン」のジャケット

海外生産されるBUTラインから、スケーター御用達のアウターをレザーで置き換えた意欲作を。スナップボタンやカシメも同素材で包んだストイックな作りに。コーチジャケットに惹かれつつもシャカシャカナイロンに抵抗があった人はぜひ。
清水将之(mili)=写真 来田拓也=スタイリング yoboon(coccina)=ヘアメイク 今野 壘=文