OCEANS

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2019.11.01

ファッション

“ミスターTバック”が語る、ヴィンテージデニムとトレンドの深い関係

オーシャンズが11月2日(土)に開催するデニムイベント「OCEANS DENIM CAMP(オーシャンズ デニム キャンプ 2019)」。“年に一度はデニムをはきかえよう”をスローガンに掲げたイベントまで、デニムにまつわるスペシャルコンテンツをお届けします!
現在進行形のファッションには、常にトレンドがつきものだ。それに対してヴィンテージには、作られた年代やディテールによって独特の価値があり、現在は作られていないがゆえに普遍の存在であると思われがち。
ところが古着屋「ベルベルジン」のデニムアドバイザー、藤原 裕さんによると、実はヴィンテージデニムにもトレンドがあるのだとか……。
第1回:「ヴィンテージデニムの値段の推移と景気の関係」を読む。
第2回:「世界でいちばん高価なヴィンテージデニムの話」を読む。
第3回:「ハンターはデニムを掘り当てに鉱山を目指す」を読む。
第4回:「ヴィンテージデニムの価値を見出した日本人の正体」を読む。

藤原 裕(ふじはらゆたか)●1977年、高知県生まれ。原宿の人気古着ショップ「ベルベルジン」のディレクターを務める。豊富なヴィンテージの知識をベースに、ヴィンテージデニムアドバイザーとして、他ブランドとのコラボなども行う。 2015年3月にリーバイスの501XXの歴史と51本のヴィンテージジーンズの写真や資料を収録した書籍『THE 501 XX A COLLECTION OF VINTAGE JEANS』を上梓。
──ヴィンテージっていうと「トレンドに左右されない普遍的なもの」というイメージがありますが、実際はそうでもないとか?
藤原 はい。90年代のブームの頃は“腰ばき”が流行っていましたが、最近ではジャストサイズが気分です。その流れからも価格が変動していて、今では大きいサイズがお手頃になったり。またファッションの世界でダメージ加工のデニムが定着したおかげで、当時は仕入れの対象になっていなかったダメージのある(またはリペア痕のある)デニムも注目されています。
──そういえば最近では「1st」や「2nd」に加え、「3rd」*1 のGジャンも注目されていますね。なかでも「1st」は“Tバック”をオーバーサイズで着るのがトレンドになっています。この流れを作ったのが藤原さん。通称“Mr.Tバック”とも呼ばれています。
藤原 何も知らない人が聞くと変な目で見られそうですね(笑)。最近では落ち着きましたがファッション界でワークウェアがブームになって、カバーオールを筆頭に長い着丈が好まれる傾向になりましたね。その影響もあって日本人にジャストサイズな古着のカバーオールがほとんど出てこなくなり、Gジャンが再度注目を浴びるようになった。
以前はジャストサイズをショート丈で着るのがカッコいいとされていましたが、ややオーバーサイズだと着丈も長くなって全体的にバランスがいい、というのが気分なんですよね。着丈の長さを確保するために大きめのサイズを着る流れになっていったんです。
そんな折、常連のお客様から「背中に縦に線が入った『1st』を1度だけ見たことがあって、あれは絶対サイズが大きいことで“剥ぎ”を入れているんだよ」という話を聞きまして。にわかには信じられませんでしたが、買い付けで渡米したときにガタイのいいジップ・スティーヴンソンさん*2 を訪ねて私物の「1st」を見せもらったら、ともにサイズ50インチのユーズドとデッドストックの背中には、まさにその剥ぎが入っていたんです。
「ホントにあるんだ!」と感動しましたよ。同じくカラダの大きいほかのディーラーにも3着の私物「1st」を見せてもらったら、こちらも同じ。本国ではスプリットバックと呼称していますが、バックヨークと剥ぎの縫い線が重なってアルファベットの“T”に見える。それで僕らが「Tバック」と呼んでいたら、その名前が定着しちゃったんです。
*1 リーバイスのGジャンの進化を時系列で並べるために便宜上分けられた呼び名。正式には1st=Lot.506XX(1920年代~1950年代前半)、2nd=Lot.507XX(1952年~1962年)、3rd=Lot.557XX(1962年~1966年)という品番が与えられている。それ以降は3rdのデザインを踏襲し着丈やシルエットをブラッシュアップした4th=70505に移行する。
*2 収集だけでなく“着用派”のヴィンテージコレクター。HTCを設立し、スタッズアートを広めた人物として日本でも知られるが、現在は自身の名を冠したデニムブランド、スティーヴンソン・オーバーオールやヴィンテージのリメイクアイテムなどを手掛ける。ガッシリした体躯でジャケットサイズは50インチを着用する。

──かつてのブームの頃は誰もTバックに着目しませんでしたよね。ビッグサイズを着る人口が圧倒的に少なく、バイヤーも仕入れることが少ないから人目につかなかったんでしょうか。
藤原 本国のアーカイブ研究者もいくつのサイズから剥ぎが入るのかは知らないんです。古いプライスリストにはエクストラ(Extra)サイズであることを示す“E”を加えた「506XXE」という品番表記が44、もしくは46インチからなされていますが、そこには背中の剥ぎには一切触れられていない、というのも要因でしょう。
これまで100着以上のTバックを観てきましたが、僕としては46インチから剥ぎが入ると睨んでいます。以前の相場では中心サイズの36、38インチでインディゴブルーが6~7割残っているものより、Tバックは安かったんです。僕は早い段階から、明らかに球数が少ないTバックの稀少性を訴えてきたので、最近は認知度の広がりとともに価格も上がってきました。

今ではファッションブランドでも再現されるようになった“Tバック”。藤原さんの話を聞くと、ヴィンテージとファッションがお互いに影響し合っていることがわかる。こんなタメになる藤原さんが登壇するトークショーも、11月2日(土)の「OCEANS DENIM CAMP」では開催するので、お楽しみに。
 
志賀シュンスケ=写真 實川治德=取材・文


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