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2019.08.05

ファッション

90年代音楽系Tシャツの意外な事実。ブートとオフィシャル、価値があるのは?


されど、Tシャツ。●これまで何枚着てきたか、Tシャツ。服としては何よりシンプルなつくり、Tシャツ。理想の一枚に出会ったと思ってもすぐに次が欲しくなる、Tシャツ。されどで探す、今年いちばんの、Tシャツ。


僕らがティーンだった頃。ライブ会場で買ったオフィシャルも、行きつけのレコード店が(おそらく勝手に)作っていたブートも、「好きなアーティスト」ということで平等に着ていた音楽系Tシャツ。それらが最近のヴィンテージシーンを賑わせているが、価値があるのはきっと、オフィシャルだよね?

門畑明男さん●1940〜70年代のアメリカンヴィンテージウェアをラインナップする「フェイクアルファ」のバイヤー。 門畑明男さん●アメリカンヴィンテージウェアを扱う名店「フェイクアルファ」のバイヤー。古着と同じく音楽も好きで、ニルヴァーナのTシャツにフォーカスしたビジュアルブック『HELLOH?』を出版している。


そんな素朴な疑問を、ニルヴァーナのTシャツ本も出版しているヴィンテージショップ「フェイクアルファ」の門畑明男さんにぶつけてみた。

前回教わったチェックポイントを確認すべく実家のタンスを漁った編集部員は、ビースティ・ボーイズの名盤「チェック・ユア・ヘッド」のジャケ写をプリントしたTシャツを見つけた。それを手に2度目の取材スタート!〜

ビースティ・ボーイズのオフィシャルTシャツ、その価値は?




—これ、見てくださいよ。20年くらい前に手に入れたオフィシャルのビースティ・ボーイズのTシャツです。きっと価値も(むふふ)。

門畑 う〜ん……ふむふむ。ひとまず、オフィシャルか否かは、あんまり関係ないかもしれませんね。

—えっ!?

門畑 逆に、ブートの方が珍しいものが多いので価値としては高いことがあるんです。

—えっ!? えーっ!?

門畑 しかも、オフィシャルほど大量生産じゃないことも多いので、人気のデザインだとスゴいことになります。一点物ってわけじゃないですけど、それに近い感動がブートにはある、ことがある、とお伝えしておきます。

グレイトフル・デッドが1970年に発表したアルバム「アメリカンビューティー」のジャケットをプリント。 グレイトフル・デッドが1970年に発表したアルバム「アメリカン・ビューティ」のジャケットをプリント。「ボディは90年代。これはおそらくオフィシャルで発売したものだと思います」。


—ガーン……。

門畑 でも、ビースティ・ボーイズはヴィンテージTのなかでも不動の人気を誇りますし、格好いいですし、いいじゃないですか。

—てっきりオフィシャルに価値があるとばかり……。

門畑 そう思っちゃいますよね。ただ、なかにはグレイトフル・デッドのようにブートOKなバンドもあります。“デッドヘッズ”というコアなファンは、今でもガンガン刷ってガンガン勝手に売っています。そうなると話は別。数が多すぎて価値が付けにくくなっていくので。

—なるほど。

門畑 オフィシャルって基本的に、音源ジャケットで使用したアートワークを用いることが多い。たいてい版権はレコード会社が持っていますから、Tシャツもそのデザインだと出しやすいんですよね。となると、デザインはほぼ決まってきます。収益も考えると結構な枚数を刷っていたでしょうし、ヴィンテージのレア度としては低くなっていきます。

1970年にリリースされたアルバムジャケットをプリントしたこのTシャツには、90年代を示すコピーライトが。 1970年にリリースされたアルバムジャケットをプリントしたこのTシャツには、1990年を示すコピーライトが。


—となると、オフィシャルの印籠的なコピーライトも意味をなさない?

門畑 一概に「意味をなさない」とは言えませんが、いろいろ複雑です。ちなみに、コピーライト表記は80年代に義務付けられたはずなので、80年代以降のボディで、70年代を示すコピーライトが付いていたら完全に後乗せだと思われます。それっぽく見せるためのデザインでしょうね。

—ボディと整合性が取れれば大丈夫?

門畑 そうですね。特に90年代後半から2000年代初頭にかけてはそういうTシャツがたくさん出ました。前回の見分け方を参考に、時代を確認してみてください。

1965年にビートルズが発表した6作目のアルバム「ラバー・ソウル」。こちらは90年代のボディにそのジャケット写真を大判でプリントした一枚。 1965年にビートルズが発表した6作目のアルバム「ラバー・ソウル」。こちらは90年代のボディにそのジャケット写真を大判でプリントした一枚。1万2800円/フェイク アルファ 03-3404-0168


—ファッショントレンドとの関係はあるんですか?

門畑 もちろん、時代やトレンドによっても価値は変動します。これはオフィシャルにもブートにもいえることですけど、90年代ってTシャツをゆったり着てたじゃないですか。それが今のトレンドにもマッチする。だから当時のTシャツの値が上がっているともいえますね。

—となると、デザインも重要になりそうですね。

門畑 そうなんです。実は、90年代ってプリント技術が大きく進歩した時代でもあるんです。たとえばプリントの版も、極端に大きく刷れるものが登場してグラフィックの自由度が格段に上がりました。このビートルズのTシャツはいい例です。名盤「ラバー・ソウル」のジャケ写を全面プリント。デザインセンス、いいですよね。

—価値基準にデザインのクオリティも加味されるってわけだ。

門畑 今は、グラフィックさえ良ければバンドの知名度に関わらず評価される場合もありますから。それが若い子たちのリアルな感覚だと思います。「絶対そのバンドを知らないでしょ」って子が着ていたりしますからね(笑)。そういう目線からすると、デザインが良かったらオフィシャルである必要もなくなってきます。

—そうして新しい価値が付いていく。

門畑 はい。

—しかし……ビースティはショック……。

門畑 想定外のアイテムに出会えるのがブートの楽しみ。音楽系Tシャツは、ヨコシマな気持ちでなく、自由でフラットな目線で選んでくださいね(笑)。

 

これまでに出会ったことのない新種&珍種の方が、金太郎飴のようなオフィシャルよりも面白い。90年代の音楽系Tシャツに加わった新しい価値観で、今年のTシャツライフの楽しさは、さらに増す気がする。

 

[話を聞いた店]
フェイクアルファ
住所:東京都渋谷区神宮前1-8-21
電話:03-3404-0168
営業:12:00〜20:00 無休

菊地 亮=取材・文

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