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経営危機を救ったクリエイティブ・ディレクターが仕掛ける「グレンソン」の進化

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イギリス・ノーサンプトンのシューメーカー、グレンソン。150年の歴史を持つこの老舗は、実は一度経営の危機に瀕している。ブランドの再建を託されたのは、靴を愛するひとりのイギリス人であった。

グレンソンとは?
1866年、イギリス・ノーサンプトンにて創業。職人ウィリアム・グリーンが、とうもろこし商人の家の屋根裏で靴を作り始めたのがそのルーツ。グッドイヤーウェルト機をいち早く採り入れ、軍靴製造で地盤を作る。戦後、その骨太なモノ作りで一世を風靡。1974年公開の映画『華麗なるギャツビー』で出演者たちの足元を飾ったのはグレンソンだった。現在はロンドン市内に5店舗、NYに1店舗を構え、多くのファッションブランドとのコラボレーションも展開する。ブランド名は創業時の社名であった「ウィリアム・グリーン&サン」を縮めたもの。

「一歩一歩、できることを積み重ねていくしかない」

イギリス・ノーサンプトンのシューメーカー、グレンソンのCEO兼クリエイティブ・ディレクター ティム・リトル
CEO/クリエイティブ・ディレクター ティム・リトル 氏 1963年、イギリス・ノッティンガム生まれ。祖父の代から続くテキスタイル工場に育つ。広告業界を経て、’97年にシューズブランド「ティム・リトル」を立ち上げ、ロンドンのキングスロードに店を構える。2005年、グレンソンのクリエイティブ・ディレクターに就任。その5年後には会社を買い取り、売り上げを3倍に伸ばした。息子とともに観戦するフットボールが週末の楽しみ。贔屓のチームはダービー・カウンティ。1部リーグへの昇格を夢見て応援する日々。

「僕はなぜか子供の頃から無性に靴が好きだった。服には大して頓着しないのに、靴だけは妥協するということがなかった。母親からは『あなたとは靴屋さんに行きたくないわ』って言われたものだよ(笑)」。

靴の聖地ノーサンプトンの老舗、グレンソンのCEOを務めるティム・リトル。社会人の振り出しは広告マンで、デヴィッド・リンチと一緒に仕事をするほどの敏腕だったが、1990年代中頃、導かれるように靴の世界へ入っていった。

「広告は人が作ったものを世の中に紹介する仕事。それはそれで刺激的だったけれど、いつの頃からか作る側に回りたくなったんだ」。

ティムはかねがね靴屋に不満を持っていた。いつ売り場を覗いても似たような靴しか並んでいない。いくらでも面白くできるんじゃないか──そう考えた生来の靴好きは単身ノーサンプトンに乗り込んだが、想像以上に旧態依然とした現実を目の当たりにする。

「どんなに大きな工場にもデザインチームがなかった。新作は役員会議で決められる。『今年はこの靴が売れたから、その新色を出そうか』って具合にね」。

同じノーサンプトンの靴メーカー、ジョージ コックスで半世紀働いた職人と出会ったティムは、顧問としてその男を雇う。徹底的に靴作りを学び、ロンドンに自身の小さな店を出した。

手染めのブラウンレザーを釣り込んだホールカット。それがティムの名を業界に知らしめた一足だ。ホールカットは一枚革の成型に高い技術を要し、歩留まり(生産効率)も悪い。当時はすっかり忘れ去られていたデザインだった。そして、手染めのブラウン。黒一辺倒だった英国靴にあって、それはセンセーショナルと言ってもよかった。

ティムは己の感性を信じて疑わなかったが、肝心の工場が決まらない。探し回ってたどりついたのがグレンソンだった。そうして両者の関係が始まるも、程なくしてグレンソンの経営は悪化。この窮状を打開すべく創業家は、クリエイティブ・ディレクターとしてティムに白羽の矢を立てた。彼にとっても願ったりかなったりで、200の工程を8週間かけて完成させる技術力は喉から手が出るほど欲しかったのだ。

「僕の信条はデザインと職人仕事の融合にある。そう聞くとみな拍子抜けするけれど、この当たり前の足し算ができているブランドはほとんどない。たとえばロングノーズをどう思う? 僕に言わせればクレイジー。力が入りすぎていて格好悪いよね。デザインの究極は、何も手を加えないことだと思う」。

新生グレンソンを印象づけたトリプルウェルトの靴は、その名のとおり3つのウェルト(アッパーとソールの間に挟み込む革)を組み合わせている。威風堂々とした佇まいはソリッドなコレクションの中で異彩を放っていた。

「あれは職人技をアピールするキャッチーな存在だった。言ってみれば広告マンとしての感性だけど、実はアーカイブから掘り起こしたスペックなんだ」。

コレクション作りの傍ら、ティムは生産体制の充実も図った。2013年、19世紀から続く工場を売り払い、ハーフマイル離れた地に使い勝手のいい工場を建てた。その前年にはインターンシップ制度も始動、50代後半だった社員の平均年齢は10ほど若返った。

「それでも、この仕事は一足飛びの成長なんて見込めない。一歩一歩だよ」。

広告業界を離れるときにポルシェ「911」を手放した彼は、代わりに買ったスクーターに今も跨り、ノーサンプトンの街を楽しそうに走っている。


竹川 圭=文 加瀬友重=編集

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