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2018.05.20

ファッション

45人の歴代大統領のうち40人が愛用した「ブルックス ブラザーズ」の歴史

今年創業200周年を迎えるブルックス ブラザーズ。この偉大なるアメリカブランドのトップは、実はイタリア人である。2001年から会長兼CEOを務めているクラウディオ・デル・ヴェッキオ氏がブランドの歴史に対する敬意と“最高品質”へのこだわりを語る。

ブルックス ブラザーズとは?
ヘンリー・サンズ・ブルックスにより1818年に創業。ポロカラーシャツ(ボタンダウンシャツ)をはじめとして、アメリカントラッドにおける数々の定番アイテムを考案してきた老舗である。米国歴代大統領、多くのハリウッドスターたちにも愛用され、アメリカの歴史とともに歩んできたブランドといえるだろう。海外初出店は実は日本。1979年、東京・青山に旗艦店をオープンした。現在は全米に約120の店舗を構え、世界70カ国で展開している。


「45人中40人の大統領が着用した事実に誇りを持っています」


会長兼CEO クラウディオ・デル・ヴェッキオ氏。1957年イタリア生まれ。北部のヴェネト州アーゴルドで育つ。イタリア最大のアイウェアメーカー「ルクソティカ」の創設者、レオナルド・デル・ヴェッキオを父に持つ。ルクソティカのエグゼクティブディレクターを経て、2001年にブルックス ブラザーズを買収し、会長兼CEOに就任。ブランド本来の高品質な服作りに回帰すると同時に、’07年には外部デザイナーとしてトム・ブラウンを迎えるなど、新たな試みにも積極的に取り組んできた。趣味はゴルフ。プライベートでは妻と2人の息子、1人の娘を持つ父親である。


このブランドの歴史はアメリカの服飾史そのものと言っても過言ではない。ブルックス ブラザーズ。オーシャンズ世代には馴染みあるブランドのひとつである。だがこのブランドのトップがイタリア人であることは、意外に知られていないのではないか。会長兼CEOのクラウディオ・デル・ヴェッキオ氏はこう回想する。

「30年以上も前のことです。初めてNYに降り立った私は、マディソンアベニューの本店に向かいました。10代の頃から憧れていたブランドだったのです。当時のイタリアのスタイルアイコンのひとり、ジャンニ・アニエリのお気に入りとしても有名でしたから」

当時ヴェッキオ氏は父親がオーナーを務めるアイウェアメーカー「ルクソティカ」に勤務し、ビジネスを通じてブルックス ブラザーズと取引があった。ブランドを買収したのは本店を訪れてから約10年後のこと。以来、経営のトップとして手腕を振るっている。

「9・11以降、小売りビジネスは非常に厳しい状況が続きました。しかし私はブランドが大きなポテンシャルを秘めていると信じ、本来の高品質な製品作りを取り戻すことに注力したのです」

ブランドの歴史は2世紀にわたる。紐解くにはとても紙幅が足りないが、改めていくつかのエピソードについて聞いてみた。それがすなわち、ヴェッキオ氏の言う「大きなポテンシャル」だと思ったからだ。まずはブランドの“発明品”といえるポロカラーシャツ(ボタンダウンシャツ)の誕生について。

「1896年、創業者の孫であるジョン・E・ブルックスがポロ競技を観戦していたときのこと。風でめくれないよう、選手たちはシャツの襟を留めていました。これをヒントに、襟をボタンで留めたシャツを考案したのです」

1901年に段返り3ボタンの「ナンバーワンサックスーツ」を、その翌年にはレジメンタルタイのストライプ柄の向きを反転させた「レップタイ」を発表。僕らが愛用する“アメトラアイテム”は実に100年以上前に作られたものだったのだ。さて冒頭「このブランドの歴史はアメリカの服飾史そのもの」と書いたが、実は「アメリカの歴史」ともきわめて深い関係にある。

「45人の米国大統領のうち40人が着用しているという事実に誇りを持っています。リンカーンのフロックコートを作ったのは私たちですし、ジョン・F・ケネディも多くの商品を購入しました。またハリウッドの多くの伝説的なスター──ケーリー・グラント、スティーブ・マックィーン、ポール・ニューマン──も私たちの服を愛用。その伝統は今も引き継がれ、多くのアメリカン・セレブリティが着用しています」

どんな質問にも丁寧に、詳細に答えてくれるヴェッキオ氏。ある意味アメリカ人以上にこのブランドに敬意を表し、愛情を注いでいるのかもしれない。

「私たちの使命は、適正な価格で最高品質の商品を販売すること。そのために自社工場を多く所有し、より良いものを作り続けています。私は“管理人”として、継続的な成長に責任を持たなければなりません。でも、この仕事を心の底から楽しんでいるのです」

ジャンニ・アニエリ(※1)
1921〜2003年。自動車メーカー、フィアット社の元名誉会長。’60〜’80年代にフィアットを大企業へと成長させた人物である。その優雅なライフスタイルやファッションにも注目が集まった。

レジメンタルタイ(※2)
ストライプタイの一種。英国の軍隊の所属を表す斜めの縞柄に由来する。本来は向かって右上から左下に流れる縞を、ブルックス ブラザーズでは左上から右下に流れる縞に反転させて販売した。

 

加瀬友重=文

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