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2018.05.13

ファッション

代官山に突如現れたグラフィティを描いた男が語る「真実」とは?

最近、東京・代官山を訪れた人ならお気づきかもしれない。豊かな色彩でどデカく「TRUTH」と描かれた壁面を。場所は「デンハム 代官山」。

さまざまなブランドのショップが集まる情報の発信地に突如現れたアートワークは、道ゆく人が振り返るほどの絶大なインパクトだ。
デニムブランドであるデンハムと「TRUTH」。そこに漂うハッピーな雰囲気。さて、ここにいったいどんな想いが込められているのだろうか。どうやら、単なるインスタ映えスポットではなさそうだが……。
 

「TRUTH」に込められた“真実”とは?


デンハム 代官山の壁面に描かれたこのアートを手掛けたのは、イギリスで活動するアーティストのベン・アインさん。ストリートアート通を筆頭に、ファッションブランドとのコラボレーションなどで知る人も少なくないだろう。彼の手から生まれるタイポグラフィは今、世界中の街から引っ張りだこなのである。
そんな世界的アーティストとデンハムのコラボレーション。そして「TRUTH」という言葉。なんとその真意をベンさん本人に直接聞く機会をもらった。
アーティストのベン・アインさん。「実際、描く壁の前に立ってみないと、わからないことがある」と語る。
「僕は、基本的にそのとき、その場に立った瞬間に心に浮かんだものを大切に表現しています。ただ、描く対象と向き合うために、今回のようにブランドの場合なら、そのスローガンやフィロソフィをもらって構想もじっくりと練ります。今回も、デンハムについて自分の中で熟成させたアイデアを、その場で感じたものを混ぜながら形にしました。デンハムは僕も好きで、実際にジーンズもはいています。ハイエンドなクラフト感とか、手の込んだ職人の縫製や加工からわかるデニムへの熱い想いは感じ取っていました。そういう背景も含めて、デンハムとアートを見るニッポンの人たちをコネクトできる言葉として選んだのが、『TRUTH』なんです」。
選んだ言葉が「真実」とは、強いメッセージが感じられる。
「時と場合によって、文字をデザインとして捉えるか、文字の持つ意味を重視するかを判断していきます。今回はやはり、意味を重視していますね。デンハムのブランド哲学を見たときに、『THE TRUTH IS IN THE DETAILS…』という言葉がありました。『TRUTH』という言葉は捉え方で意味が変わったり、誤解されたりしない強いもの。『TRUTH』という言葉そのものが、これを見た道ゆく人たちとデンハムを誤解なく繋いでくれる、そんなイメージでした」。
「細かなところまで『TRUTH』を求めるデンハムの物作りにも、嘘がないんですよ」とベンさん。
「彼らの『THE TRUTH IS IN THE DETAILS…』の想いは、僕のアーティストとしての想いと大いに共通する部分があると考えています。道ゆく人とデンハム、そして自分の想いも繋いでくれる最高な作品が出来上がりましたね!」。
 

描きたいのは、誰もが楽しめる民主的なアート

今やストリートアート界において、イギリスを代表するベン・アインさん。作風は、今回のデンハム 代官山同様、建物の外壁や路面店のシャッターなど、ストリートをキャンバスにしたタイポグラフィだ。プロフィールを見ると、デザイナーとしての経験や印刷会社のプリント技師などをしていたこともあるという。

そんな彼が「ストリート」を舞台に選んだのは、どんな理由があるのだろうか。
「昔はキャンバスを使ってのグラフィティやタギングなども頻繁にやっていたのですが、20年くらい続けているうちに、徐々にアートに対する情熱が薄れていってしまったんです。そして、アートの中でも、人々に愛されたり、感謝されたり、世の中にもっとポジティブな意味を発信できるアートは創れないかと考えました。そこで辿り着いたのが、このストリートでのタイポグラフィという手法です」。
「街頭で表現するのは、とにかく人に見てもらうため。だって、キャンバスに描いてどこかのギャラリーとか美術館に飾っているだけじゃ誰一人見ないかもしれない。そもそも、みんなギャラリーや美術館なんかほとんど行かないでしょう?(笑)。ま、それは冗談としても、ストリートのペイントならば24時間、そこを通る人なら誰でも見られるからね。やっぱりより多くの人に作品を見てもらいたい。この代官山のグラフィティだって、すでにどれだけの人の目にとまったかわからない。僕にとってストリートはパーフェクトなプラットフォームなんですよ」。
無料で誰もが楽しめる。まさに民主的なアート。ベンさんのアートがハッピーな気分を運んでくれるのは、こんなところにも理由がありそうだ。
 

日本もデンハムも、ほかにはない物作りに向けた繊細な感性を備えている

今回のアートワーク・プロジェクトの発端は、ジェイソン・デンハムさんをはじめとするスタッフとベンさんが友人関係にあったからだという。
さてベンさん、デンハムというブランドをどのように見ているのか?
「もちろん以前から知っているし大好きです。今、僕はデンハムの服を着ているし、ペイントしたときもデンハムのジーンズをはいていましたよ。それがすべてでしょ(笑)」。
「昨日(インタビューはペイントの翌日)僕がはいていたデニムはこれ。赤いボタンがセクシーでしょ?(笑)」。
「デニム自体とっても好きで、普段からはいています。日本のデニムも素晴らしいですよね。日本はもう10回以上は訪れていますので、よく知っています」。
お茶目で、物作りにも真摯な眼差しを送るベンさん。旅をしながらさまざままモノゴトに着想を得て、アートをフリースタイルに楽しむ姿勢が、デンハムのデニム作りともリンクする。
最後に日本の好きなところを聞いてみた。返ってきた答えは「東京での買い物」と「大阪での飲み歩き」。そして意外にも、その両者を結ぶ「新幹線」をこよなく愛しているという。
「すごく速いし、喫煙ルームで分煙もばっちりされています。そして、いちばん驚いたのは、乗るたびにシートが進行方向を向いていること!(笑)。だって帰るときは、戻る方向にシートの向きが変わっているんだよ! こんなことほかの国では考えられないよ。こういうディテールに気を使っている日本らしい物作り繊細さに共感するんですよね」。
さすが、アーティストならではの着眼点。ハッピーなベンさんのアートが、代官山だけでなく日本のいろいろなところで見られる日が楽しみだ!
■ PROFILE

ベイン・アイン●1970年、ロンドン生まれ。アンダーグラウンドでのストリートアート活動をしながら、印刷会社のプリンターとしてバンクシーの作品を手掛けるなどのキャリアを経て、2008年にアーティストとして独立。同年には、ロンドンの「TIME OUT」誌により、新進気鋭のアーティスト6人に選出。現在は世界から注目を集めるグラフィティアーティストに。
【取材協力】
デンハム・ジャパン
03-3496-1086
www.denhamjapan.jp
永禮 賢=写真 髙村将司=取材・文


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