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2018.03.27

ファッション

こだわりのプロダクトに潜む「カナダグース=本物」というストーリー

高品質なダウン素材と優れた裁断・縫製技術によって、近年急速に評価が高まっているダウンウェアブランド、カナダグース。CEOのダニー・リース氏が「メイド・イン・カナダ」への思いを語る。
カナダグースとは?
1957年、サム・ティックにより創業。当初はカナダ・オンタリオ州トロントの小さな倉庫で、アウタージャケットの製造販売を行っていた。’70年頃に義理の息子のデヴィッド・リースが入社し、大容量のダウン装填機を発明。ブランドの前身となる「スノーグース」をスタートし、ダウンウェア大量生産の基礎が築かれた。現在は2000人以上の従業員を擁する大企業に成長し、世界51カ国でその製品が販売されている。

「カナダから発信していることを誇りに思う」

CEO ダニー・リース氏。1973年、トロント生まれ。創業者サム・ティックの孫で、2代目のデヴィッド・リースの息子である。’97年にカナダグースに入社。2001年のCEO就任後、約10年でブランドの売り上げを20倍に伸ばしたという。「寒冷地での作業着」のイメージを払拭し、同社をカナダ随一のグローバルな高級アパレル企業へと躍進させた立役者である。
プレミアムなダウンウェアが百花繚乱である。ユーザーの人気も高く、夏の終わりから売れ始める活況を呈するなか、“メイド・イン・カナダ(※1)”のブランドとして注目を集めているのがカナダグースだ。躍進の礎を築いたのは現CEOのダニー・リース氏。だが、創業者であり祖父のサム・ティックが会社を興した当時は、トロントのローカルな一工場だったという。
「ポーランド移民だった祖父がつくった会社では、40人ほどの社員がアウターを作っていました。2代目を継いだ父のデヴィッド・リースが会社を大きくしたんです。アウターにダウンを装填する機械を発明して、アウトドアブランドの製品生産を請け負うようになりました。父が立ち上げたのが、のちにカナダグースとなる“スノーグース”というブランド。そのコンセプトは“厳寒地であるカナダで最高の防寒服を”。ほどなく極地で活動する探検隊や調査隊(※2)に評価されていきました」。
1970年代後半、アパレル製造業は中国やベトナムなど、アジアに生産拠点を移し始めた時期であった。だが、品質維持のためにカナダ国内での生産にこだわり続けた。そしてダニー・リース氏は’97年、父の会社に入社する。
「実は、会社に長く籍を置く気はなかったんです。文章を書くのが好きだったので、旅に出て短編を書きながら生計を立てようと思っていました。でもある朝、2社のアパレル企業がカナダでの生産を終了する、という新聞記事を読んだんです。これは、逆にチャンスだと思いました。オーセンティックなカナダのモノ作り。そのストーリーを発信するなら今だと感じたんです。2001年、私は会社に残ることを決意してCEOに就任しました」。
自社の歴史を徹底的に見直したという。例えば「カナダグースに命を救われた」といったエピソードを収集し、「カナダグース=本物」というストーリーを世界に発信し始めたのである。
「当時カナダでは、確かに多くの人がカナダグースを着ていました。でもほかの国ではほとんど知られていなかったのです。私はまずイタリアや北欧への進出を試みました。彼らは“モノの本質”に対する理解力が高いと思ったから。クオリティは認められ、かつファッショナブルだと評価されました。世界で勝負する自信がつきましたね」。
現在は日本を含む、世界51カ国に展開するグローバルブランドへと成長を遂げた。この先カナダグースは、一企業としてどういう道を進むのだろうか。
「モノ作りに対する情熱を持ち、技術革新の努力を続けるのは製造業として当然のこと。そして環境保護(※3)、社会貢献への取り組みも現代の企業にとっては常識だと思っています。結局私の思いは、いつも“メイド・イン・カナダ”に戻っていくんです。“カナダといえばカナダグースだよね”と、世界中の人に言ってもらえる企業になりたい。それが私の本音です」。
メイド・イン・カナダ(※1)
製品には西カナダ産の最上級ダウン「ハッタライト ダウン」を使用。5つの自社工場と20の生産拠点を持ち、「国内縫製業界の労働力の6%を雇用する企業」とカナダ政府に認定されている。
探検隊や調査隊(※2)
1970〜’80年代にかけて、極寒地で活動する人々に積極的に製品を提供。’82年には特注のパーカを着た登山家ローリー・スクレスレットが、カナダ人としてエベレスト初登頂を果たした。
環境保護(※3)
ホッキョクグマ保護団体「ポーラー・ベアーズ・インターナショナル(PBI)」と協力したコレクションを2007年に発表した。その売り上げをPBIに寄付し、団体への支援を続けている。
髙村将司=文


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