それは禁断の着心地……愛さずにはいられない「楽な服」! Vol.46
2020.04.21
FAMILY

企業型保育園を5年で開園。ナルトトランクスの“人を喜ばせる”ビジネスの形

長年にわたりサーフトランクスを作り続けている「ナルトトランクス」代表の山口さん。アウトドアブランド、パタゴニア本社で見た社内託児所の光景が忘れられず、企業型保育園をなんと5年で開園。

“夢を実現する力”と“人を喜ばせる”ビジネスがここにある。

 

「安心の連鎖」「地域還元」を興味から実行へ

ナルトトランクスの企業型保育園「ナルトキッズ」
玄関の屋根は雨の日でも困らないように大きく作られた。

きっかけはパタゴニア本社を訪れたことだった。それはおよそ5年前のこと。徳島県鳴門市でオーダーメイドのサーフトランクスブランド「ナルトトランクス」を営む山口輝陽志さんは、知人に会うためにカリフォルニアにある同社を訪れた。するとそこには保育園があったという驚きが。

山口さん自身、経営者であり4人の子を持つ父親。オフィスでイキイキと働く親の近くで子供が楽しく過ごしている状況に接し、「なんて素晴らしい環境なのだろう」と感じた。

帰宅すると感銘を受けた様子を家族に伝えた。妻・晶子さんと母・壽子さんは保育士の資格を持っている。「日本でも福利厚生施設として保育園を備える企業が増えている。あなたもやればいいじゃない」。そんなふたりの激励に山口さんは背中を押され、まもなく壽子さんを園長に企業主導型保育事業(※)の助成申請を行った。

「徳島では大塚製薬さんのような大企業や病院が事業所内保育園を設置していますが、うちは従業員が10人に満たない零細企業。申請が通るとはまったく思いませんでした。おそらく妻と母が書いた内容が良かったんでしょう。何をどう書いたのかは知らないんですけどね」。

そう言って笑う山口さんは、ふたりがいたからパタゴニア本社で感じた「素晴らしい環境」を実現できたと思っている。そして自分は保育の素人。経営や施設の設置などハード面で主に関わり、保育の現場はふたりに任せて口は出さないようにしている。

ハンモックは子供たちに大人気の遊具。
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追求する良い保育のカタチ

申請が通った「ナルトキッズ保育園」は昨冬10月の開園にあたり、保育士、看護師、管理栄養士など10人近くを採用。地方都市に新規雇用を生み出した内情を山口さんは「正直しんどいですよ」とこぼす。

「助成されるとはいえ保育園は社会福祉事業だから、当たり前だけれどきちんとやらなきゃいけない。それに良い保育は保育者が幸せを感じてこそかなうと思うんです。やっぱり、使うところには惜しみなく使うべきで、そうすると、どう考えても儲かりようがないんですよ」。

その真っすぐな思いは施設に表れる。同施設はオフィスのはす向かいに手に入れた500坪の土地に新設され、サーフィン仲間のアーティスト豊田弘治さんがロゴを作り、各所にイラストを描いた。

各部屋には可愛いらしいアートが添えられ、至る所から優しさが溢れてくる。各アートとサインボードは豊田弘治さんによるもの。

天井は高く、窓は大きく、風通しも採光も抜群で、全体に天然無垢材が使われているため雰囲気はハートウォーミングだ。

採光たっぷりで空気の循環も良いため室内は冬でも暖かい。

さらに、イスや机はすべて手作り、園庭には「カリフォルニアへのオマージュ」として天然芝を敷いた。給食は地産の新鮮食材を使用。社食でもあり、山口さんをはじめ園児と一緒にランチをとるスタッフの姿がある。

新鮮素材を使った自慢の給食。アレルギーを持っている子にはその子のための食事を、という具合に、園児の特徴を把握しながらメニューは作られる。
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子供が「家に帰りたくない」保育園の未来

こうした手作り感満載の“こだわり”に居心地の良さを感じるためか、降園時には子供たちから「帰りたくない」という声が聞かれることもある。

[左]オリジナルで作ったユニホームは、豊田さんとナルトのコラボから生まれた。[右]春には緑に変わる園庭の天然芝。転んでも痛くないから遊びに夢中になれる。

「子供に対する不安を抱かず安心して働けることって、モノづくりの現場にはとても大切なことだと思うんです。そしてモノを作る人の安心感は、消費者が抱くそのモノへの安心感に関与していく。そう思っていて」。

定員19名の園児に対して13名のスタッフで対応。保育士は山口さんの母で保育士だった壽子さんを慕って集まったベテランばかり。

“安心の連鎖”を生むために実現したいアイデアはほかにもある。まずは夏までにギャラリーを併設すること。そこでは豊田さんのようなアーティストたちに子供向けのワークショップを行ってもらい、「ナルトキッズ保育園」ならではの時間を提供したいと思っている。

そうして子供たちを楽しませ、働くママを支援し、雇用を生んで地域に還元しながら自社も活性化させる。明るい未来を感じる循環を、生まれ育った鳴門に創出したいと、山口さんは考えている。

今までの縫製工場のイメージ覆す、西海岸調の明るい空間での仕事がメイン

「山口縫製」は、スクール水着を製造するメーカー。2代目として家業を継いだ山口輝陽志さんが、サーフトランクスのブランド「ナルトトランクス」を立ち上げた。

1975年に創業した「山口縫製」は、スクール水着を製造するメーカー。2代目として家業を継いだ山口輝陽志さんが、サーフトランクスのブランド「ナルトトランクス」を立ち上げた。

縫製工場ならではの技術はそのままに、山口さんがすべてハサミを入れて裁断。その後は1枚につき一人のスタッフが心を込めて縫いあげる、丁寧さとハートウォーミングさが魅力。ロンハーマンとのコラボアイテムも毎回即完売と注目を集めている。

(※)【企業主導型保育事業】
企業主導型保育事業への助成制度は平成28年に内閣府によって始まったもの。企業が従業員のために保育施設を設置する場合、国が定めた設置基準を満たさない認可外施設ながら認可園並みの運営費・施設整備費の助成が受けられる。そして園は、夜間や休日、1日数時間といった従業員の働き方に応じたサービスを提供できる。加えて、定員の50%以内において従業員以外の地域の子供たちを受け入れることができ、待機児童問題を解決する一助にもなっている。

 

鈴木泰之=写真(静物・取材) 三浦安間、山本雄生=写真(取材) 小山内 隆、髙村将司、増山直樹=文

# ナルトトランクス# 企業型保育園
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