
自分達の日常とは、一見縁遠く感じる“海洋保全”に、日常の行為や持続可能な経済活動を結びつけながら取り組む企業・人物をOCEANSが表彰する「THE BLUEKEEPERS AWARD」。
今年も開催された「
THE BLUEKEEPERS AWARD 2026」では5名の受賞者が決定し、去る8月には授賞式も開催された。
OCEANS編集部では各受賞者にインタビュー取材を実施。今回はINNOVATION賞を受賞したGlobal Fishing Watch(グローバル・フィッシング・ウォッチ)のCEOであるトニー・ロング氏に話を聞いた。
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トニー・ロング●キングス・カレッジ・ロンドンにて防衛学の修士号を取得。イギリス海軍で27年勤務し、英国国防アカデミーで教鞭を執ってきた海上監視のスペシャリスト。非営利団体であるピュー慈善信託では違法漁業撲滅のためのグローバルキャンペーンを指揮した。2017年にGlobal Fishing Watchに参画し、最高経営責任者としてその手腕を振るっている。
海洋データの情報化が、海洋保全の基盤になる
気候変動によってすでに大きな負荷がかかっている海に対して、海上での広範な商業活動は、さらなる負荷となり得る。持続可能な海を実現するためには、海でのあらゆる活動を適切に管理することが必要となってくるのだ。
かのグーグル社が、米海洋保全団体オセアナ、環境保護団体スカイトゥルースと協力して設立した
Global Fishing Watchは、世界中の海で起こっている不正な漁業活動を可視化することで、海の生態系と水産資源を守るべく活動している。
「BLUE KEEPERS AWARD2026」では、その画期的なテクノロジーと貢献に対してINNOVATION賞を授与。CEOであるトニー・ロング氏に、世界で注目されるテクノロジーの概要と、これからのヴィジョンを伺った。
――まずは、事業の概要について教えてください。
トニーさん 我々は、洋上における人類の活動の透明性を高めることで、海洋ガバナンス(統治・管理)を前進させることに特化した国際的な非営利団体です。
そのミッションは、“見えないものは管理できない”という明確な前提の上に成り立っています。航海や共有海域における活動をマップ上に可視化して、私たちの海が持続可能かつ公平に利用されるために不可欠なデータを、政府、研究機関、水産業界、そして一般の皆さまに至るまで、すべての人に無料で公開しています。
膨大で複雑なデータセットを収集・解析して、あらゆる人が海を守るために利用できるインサイト(知見)へと変換する役目も担っています。
――より具体的な活動内容と、現状についてお聞かせください。トニーさん 現在はちょうど、The Audacious Projectを通した支援と資金提供を受けて進めている5か年計画“オープン・オーシャン・プロジェクト”の折り返し地点を迎えたところです。
我々は、GPSデータ、ペタバイト規模の衛星画像、そしてAIを組み合わせることで、地球上の100万隻以上の遠洋航海船を検知しています。
――世界中の漁船や貨物船の動きを細かくウォッチしているということですね。トニーさん はい。ただ私たちのマップは単なる通常の追跡にとどまりません。
公的な監視システムに表示されない“ダーク・ベッセル(位置情報を非表示にしている船)”や、位置情報を送信する発信機を搭載していない何千隻もの小型船の姿までも明らかにするのが大きな特徴のひとつですね。
――それは凄い!トニーさん 同時に、洋上に固定されたインフラも可視化していますし、石油・ガスのプラットフォーム、風力発電所、深海採掘の状況も誰もが確認できるようになっています。
――御社の技術は、もうすでに多くの人や専門家が有意義に活用していると聞きました。トニーさん そうです。すでに多くの大学や研究者が、我々のオープンデータセットを活用して論文を発表していることにワクワクしています。
世界各国の政府や海洋機関と手を取り合い、保護区の監視や法規制の執行、そして違法行為が発生する前の抑止にも必要なデータとその分析結果を提供していますが、それも急速に活用されている実感があります。
――船舶の動きや操業状況の可視化が、海を守るアクションに繋がっているわけですね。トニーさん はい。やはり海で何が起きているかを知ることは、限られた人だけのためであってはなりません。
それは誰もが知る“当たり前の共通認識”であるべきすし、私たちはそれを実現するために日々活動しています。
――現在の海洋環境や漁業状況の課題、変化、それらに対して思うことがあれば教えてください。トニーさん 私たちが直面している主な課題は “スケール(規模感)”、“スピード(変化の速度)”、そして“行動を起こすための政治的意志の結集”という3つの要素に集約されると考えています。
まずスケールとは、広大な海のスケールに合った対策を講じなければならないということです。ご存知の通り、地球の70%は海ですが、2030年までにその広大な海の30%を保護するという世界目標があります。
現在の監視データでは目標を達成するのは難しく、まずは、その大きな課題に挑まなければなりません。
――しかも広大なだけでなく刻々と変化もしていますよね。トニーさん 海洋環境の悪化スピードに対して、“ガバナンスのスピード”が追いついていない。それが2つ目の課題です。
20年におよぶ交渉を経て、2026年初頭に国連の「公海生物多様性条約(BBNJ条約)」が正式に発効しましたが、紙の上の条約を実際に履行するための強制的な効果を発揮するメカニズムも必要です。
――それが3つ目の“行動を起こすための政治的意志の結集”という課題でしょうか?トニーさん はい。真のコミットメントとは、単に国際協定に署名することではありません。政府が抜本的な透明性(トランスペアレンシー)を受け入れ、責任を果たす覚悟を持つことです。
海洋や船舶データのオープンかつパブリックな情報化、すなわち“透明性”こそが、効力ある海洋保護のための最大の基盤であると私は確信しています。
――それらを経て、あるべき海や漁業の未来を創り出すには、何が必要だと思われますか?トニーさん 海の未来を描き出すには、まず“何が起きているかを知ること”、そしてその知識に基づいて、“行動を起こすための能力とリソースを持つこと”にかかっています。
我々は、主に漁業と生物多様性に焦点を当てていますが、海運、深海採掘、あるいは石油・ガス探査の管理であれ、根本的な解決策は常に“透明性”にあります。
永続的な成功のためには、全人類的な共通認識が必要です。それにより、持続可能な管理に取り組む誠実な事業者にとっての公平な環境を整え、オープンな国際協力を促進し、私たちの海が未来の世代にわたって公平に保護され管理されることを確実にするのです。
――最後に、海を愛する日本の読者へメッセージがあれば教えてください。トニーさん 今回、BLUE KEEPERS AWARDでの受賞を心から光栄に思います。3万キロメートルを超える海岸線を持つ日本にとって、海との繋がりは非常に深く、そして時代を超えて永続的なものです。
日本の海を愛し守ろうとする皆さまの選択と声には、世界を変える大きな力があります。この受賞が、海洋の透明性に対する新たなコミットメントへのインスピレーションとなり、私たちが共有する海の資源を守り、未来の世代に向けて美しい“青”を保ち続けるきっかけとなることを願っています。
――ありがとうございました! [問い合わせ]Global Fishing Watchhttps://globalfishingwatch.org/