精密を極める、人と機械のものづくり

時計工場と聞いて想像していたのは、職人が机に向かい、ルーペを覗きながら小さな部品を組み上げていく光景だった。ところが「山形カシオ」の時計製造専用棟、G棟に足を踏み入れると印象は大きく違った。
専用の服に着替え、マスクを着け、エアシャワーを抜けた先は、工房というよりラボを思わせる空間だった。整然と並ぶ機械、モニター、センサー。その間を人が行き交っている。
この日、PPLでは12人のスタッフが「OCW-P3000」の組み立てを担当。3針のシンプルなモデルに比べて工程数が多いため、通常より多くのメダリストがG字の作業台を囲んだ。
その奥にあるのが、ハイエンドモデルの組み立てを担うPPL(プレミアムプロダクションライン)だ。作業台を上から見ると、カシオを象徴する“G”の形。それを囲むのは、厳しい社内試験を通過したメダリストたちだ。
この日ラインを流れていたのは、発売を控えたオシアナスの新作「OCW-P3000」。世界各都市の時刻を読み取れる「タイムゾーンナビゲーター」を備えたモデルだ。

PPLで目を引いたのは、針の微調整だ。作業台には2台のモニター。一方には中心軸からのズレがXY方向の数値で、もう一方には横から捉えた針の拡大映像と水平線が映し出される。
メダリストはその表示を見ながら、厚さ0.2mm弱の針が下がっていれば極細の管を隙間に差し込み、指先でクイッと持ち上げる。上がっていれば、先端にクッションのついた道具でそっと押す。慣れた者なら、この調整を15〜30秒ほどで終えるという。

ここで見えてくるのが、人と機械の関係だ。製造技術を統括する結城部長は言う。「部品を一つひとつ組み立てるときの指先の感触や、全体の調和といった感性的な部分は、機械では表現できない。一方で、ミクロン単位の精度を求められるところは、機械でなければ追いつけない」。
取り付けられた針のズレや傾きを測るのは機械。その結果を読み取り、微調整するのは人。そして再び機械で状態を確かめる。人と機械の仕事は、工程のなかで何度も受け渡されていく。
組み立てを待つ「OCW-P3000」の回転ベゼル。昼夜を判別しやすいツートンカラーの24時間表示を採用し、素材には傷に強く、滑らかな光沢をもつセラミックを使用している。
メダリストの手元で組み上がっていく「OCW-P3000」。その深い青の文字盤は、金属のように見えるが、ベースは樹脂だ。精密金型で成形することで、細かな凹凸や複雑な立体形状まで高い精度で表現できる。
さらに、スパッタリングなどの加工を施すことで、メタリックな光沢とオシアナスを象徴するブルーが引き立つ。そうして仕上がった文字盤には、先ほど調整した極薄の針が重なっている。
防水テストを終えた時計を温かいプレートで熱し、ガラス面に冷たい濡れタオルを当てる。内部にわずかでも水分があれば、温度差によってガラスの内側が曇る。その変化を最後は人の目で確認する。
組み立てを終えた時計は防水検査へ。防水モデルは、抜き取りではなく全数検査。気密検査機で空気圧をかけ、ケースのわずかな変形をセンサーで測定して密閉性を確認したあと、水槽で規定の圧力をかける。
それでも検査は終わらない。今度は時計を温め、ガラス面に冷たい濡れタオルを当てる。内部に湿気があれば、温度差によって曇りが現れる。その有無を確かめ、最後にすべてを保証するのは人の目だ。
組み立てられたムーブメントをケースに収めるケーシング。時計が完成形へと近づくこの工程では、内部に異物を残さないよう、厳格な清掃とチェックが行われる。
こうして人が担う工程がある一方、熟練技術者の仕事そのものをAIで解析する試みも進んでいる。ほかの技術者と比較し、動作や判断の違いを可視化することで、技能の伝承や評価に役立てようというものだ。
多彩な機能を直径32.2㎜のコンパクトなムーブメントに凝縮した「OCW-P3000」。「タイムゾーンナビゲーター」にくわえ、衝撃と磁気に対応する「TOUGH MVT. 2」をオシアナスとして初めて搭載する。10月16日(金)発売。22万円/オシアナス(カシオ計算機 0120-088-925)
これまで経験のなかで培われてきた技能を、感覚のままにせず、技術によって捉え直し、次へ渡していく。人と機械が行き交う「山形カシオ」の現場にあったのは、時計を作る技だけではない。人の技をどう伝えるか、その受け継ぎ方まで更新しようとする姿勢だった。
OCEANS11月「デニムは、人だ。」号から抜粋。さらに読むなら本誌をチェック!