自己ベストを狙える大会でサステナブルを加速させる

世界初の試みを成功させた湘南国際マラソンは、その歩みをさらに前へ進める。次に着手するのは、トップランナーたちのタイム更新だ。
「当然、マラソンは競技なので、速いランナーほど1秒を削ることにシビアです。『エコな大会だからタイムは狙えない』と言われることもありますが、僕自身、別の大会でマイボトルを持って走ったところ、混雑する給水所に寄る必要がなく、好きなタイミングで水を飲めたことで自己ベストを大幅に伸ばすことができました」。
環境配慮が走りの足枷になってはいけない。100gの重量増すら削りたいランナーに向けて、今後はオリンピックのようにマイボトルを預けられるシステムの導入も視野に入れている。

「時間や経費を注ぎ、知恵を絞り出した環境配慮の取り組みが世の中にたくさんありますが、十分に伝わっていないのが現実。伝え方の工夫が必要です。僕らとしてもここからは、『タイムが上がった』『走っていて気持ちがいい』といったランナー自身のリアルな体感を広げていきたい。その実感こそが、結果として環境配慮の強い波及力と持続性につながっていくと考えています」。
この考え方は当然ながら、ものづくりの現場でも一貫している。「弊社は循環型素材を使ったウェアを開発していますが、ここでも『リサイクル素材を30%使用』と謳うより『10年間タフに着られる』『山でも街でも使える』と伝えたほうが使い手にはずっと響くはず。それが結果的に環境負荷を減らしていく本筋になると思っています」。
ザ・ノース・フェイスのウィンドブレーカーは約100gと軽量で、コンパクトにすればショーツのポケットに収まる設計。近年は、使い捨てレインコートからこうした高機能ウェアへ切り替えるランナーも増えている。さらに、レースの途中で脱いだ防寒ウェアを回収し、フィニッシュ地点へ届ける「クリーンスタートプラン」も2024年から導入。選択肢を広げることで沿道に脱ぎ捨てられるゴミを徹底して防ぐ仕組みになっている。
「ゴミをゼロにする」という高い理想は、個人の情熱だけでは形にできない。マイボトルランの実現に向け、ゴールドウインは大規模な投資に踏み切った。リスクを背負える企業だからこそ挑めた新たな価値であり、その覚悟が社会からの信頼を生むからだ。
そして、他者に変化を求めるなら、自らも変化を受け入れる。同社は2020年から各事業所でペットボトル飲料の販売を廃止するとともに、社内へのペットボトルの持ち込みを禁止する取り組みも進めている。