家は他人のためではなく自分のためにある。長く住んでも「いい」と感じられる空間を持つことは、贅沢ではなく自己への敬意だ。小さな部屋でも体験はつくれるし、予算や広さではなく、視点の問題だ。
ラムダン・トゥアミの「欲しいものは、だいたい買えるけど。」とは…… ▶︎
すべての写真を見る おれは複雑なものが好きだし、なんならシンプルなものを、あえてややこしくすることもある。ラクな方向に流れたくないのもあるし、なにより退屈が嫌いだからだ。
パリの自宅をデザインしたとき、「すべての部屋を違うものにする」と最初に決めた。少しだけ違うのではなく、完全に別の世界にする。それぞれ独自のルールと空気がある空間にしたかった。
均質なインテリアは好きじゃない。完璧な調和やら一貫性ってのは、安心感はあるけど決定的につまらない。緊張感もないし記憶にも残らない。家は生きているべきで、そのためにはコントラストが必要だ。例えば玄関には、存在しないモールディングをあえて作って木のパネルで覆い、天井には雲を描いた。
家はひと目で理解できるべきじゃない。すぐ理解できる空間には欲望も好奇心も生まれない。家じゅうを同じスタイルで揃えるのは最悪だ。異質な要素の混ざり合いが空間に体温を与える。
言っておくが、これは“装飾のための装飾”じゃない。重要なのはモノを増やすことじゃなく、体験をつくることだ。物語の入り口が欲しかった。
おれのパリの家はすべての部屋に“驚き”を設計している。ドアを開けるたびに、何かが変わる。緊張や感情が生まれる。それが家に必要な要素だと思っている。
ラムダン・トゥアミ●1974年、フランス生まれ。香水ブランド、オフィシーヌ・ユニヴェルセル・ビュリーを立ち上げ成功に導き、その後LVMHに売却し富豪になる。趣味は買い物。特にヴィンテージの家具に目がない。
OCEANS7月「Wellness is Wealth」号から抜粋。さらに読むなら本誌をチェック!