是枝裕和を支える亡き人たち
たとえカンヌの公式上映後にスタンディングオベーションを受けても、その感覚は変わらない。冷静でいられる理由を聞くと、是枝さんからとある俳優の名前が出た。
「映画祭でスタンディングオベーション中にも『物欲しげだから、もうそろそろやめなさい。早く帰りなさい。みっともない』って言う樹木希林さんの顔が浮かんじゃう。
彼女は美しくない行為に対して、非常に厳しくて、率直なんです。すぐ面と向かって言う。“あなた、それはね”って。それが僕のなかでひとつの倫理的な基準になっています。“これをこうしていたら、希林さんは絶対に嫌がるよな”というのが、僕の行動規範としてとても大事です」。
樹木希林さんは、彼のなかでひとつの基準として生き続けている。

そして、もうひとり。『ワンダフルライフ』から『歩いても歩いても』、そして『空気人形』まで携わったプロデューサーの安田匡裕さんだ。亡くなってから、既に15年以上。それでも、企画書を書くたびに思い出す。
「僕が“これをやりたい”となったら、真っ先に安田さんに見てもらって。そこで“やろうか”となったらやる。“待とうか”となったら待ちました。
安田さんは監督を守ってくれる。『この映画は赤字が出ている。でも、俺の会社的に言うと、こうすれば吸収できるから全然問題ない。この作品が残ること自体が素晴らしいし、次もやれる。心配するな』って。
そんなプロデューサーがいたことは、すごく恵まれていました。今でも、安田さんだったら何て言うかな、ゴーを出すかなって考えます」。

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格好良い大人の声を、自分の倫理として持ち続ける。流されず、飾らず、必要以上に自分を大きく見せない。是枝裕和さんの佇まいには、大人になるとは、自分の物差しを静かに持つことなのだと教えられる。