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すべての写真を見る2022年に7億円もの投資トラブルに巻き込まれたTKOの木本武宏さん。
通常であれば途方に暮れる金額だが、木本さんはいかにそこから立ち直ったのか。弁済に至るまでの経緯、そして極限状態にあった当時の心境などについて話を聞いた。
▶︎前編:「試しに買った50万円」「遊びの延長」から7億円の損失に 話を聞いたのは……
木本武宏●1971年、大阪府生まれ。1990年、お笑いコンビTKOを結成。キングオブコントでは4度決勝進出を果たす。バラエティ番組、ドラマ、映画、情報番組などで幅広く活躍するも、2022年投資トラブルをきっかけに芸能活動を一時休止。2023年活動を再開し、ライブツアーやラジオ、YouTubeなどを行なうほか、自身の投資トラブルの実体験を語る講演なども行なっている。
「死ぬなよ」の集中砲火で、逆に死を意識するように……

――投資トラブルが報道され、仕事もなくなった状況で、精神的に追い詰められる人も多いと思います。当時はどのような心境だったのでしょうか。報道されたからというのもあるんですけど、自分の中には「逃げる」という選択肢はありませんでした。逃げたとしても、僕には家族がいる、相方の木下(隆行)もいる、仲間もいる。残されるのは大切な人たちですから、逃げるということは考えられませんでした。
ただ、周りの人が心配して「死ぬなよ」ってメッセージを送ってくれるんです。もちろん優しさからですけど、その人にとっては1回送っただけでも、受け取る側には集中砲火のように届くんです。朝から晩まで数日間「死ぬなよ」「死ぬなよ」……って。
そんなつもりはさらさらなかったので、「死ぬわけないですやん」と返すんですけど、それだけ言われ続けると、改めてことの重大さがズシンと重みを増すというか。「それほどの状態なのか……」と、目覚めないでいい部分が目覚める感覚がありました。
アホかと思いながらも、気づいたら「楽な死に方」とか検索しているんですよ。自分の中ではあくまで“例えば”のつもりなんですけど、普通はそんなこと検索しないじゃないですか。でもそういう行動をとっていたんです。
――毎日のように報道もありましたよね。ちょっと被害妄想に入っていた部分もあって、電話1本、インターホン1本さえも恐怖でした。食べ物も喉を通らなくなった時期もあって。あの苦しみを知ると、楽な方に逃げたくなる気持ちは理解できます。
今、僕の元には同じような相談がたくさん届いていて。世の中には想像以上に多くの詐欺があるんだなと実感しています。
それと、僕は顔と名前が知られていたことが、ある意味で抑止力になりましたけど、もし自分が無名の人間だったら、追い詰められて、もっと悪い誘いにも乗っていたかもしれないと思いました。実際、そんな誘いはいっぱいありましたから。
――当時の報道の中には事実と異なるものもあったのでしょうか。それはもうたくさん。なかでも後輩の元芸人が語るという形で、「木本が一人ひとりに営業して、お金を集めた」という記事が週刊誌に出ていました。「仕事の話がある」と呼び出されて、蓋を開けたら朝まで投資の話をされた、「金を持ってこい」と言われたみたいな証言だったんですよ。でも僕は一度もそんなことをしていない。
――どのように対応されたのですか?当時はすでに退所していましたが、事務所に連絡をして「誰がこんな話をしているのか」と確認しました。さらにテレビ局からも同様の証言があると連絡があったので、「それは完全に嘘です。誰かは知らないけれど、本人に名誉毀損で徹底的に争いますと伝えてください」と言いました。
結果的にそれで相手が引き下がり、週刊誌側とも直接話をして、納得してもらうことができました。
ただ、最初のころに独占取材を受けた記者の方が「何か力になれたら」と、とても親身になって取材をしてくださって。記事が出たときに「これで世間の人は少しは理解してくれるだろう」と思ったんです。
でも当たり前ですけど、実際は多くの人は記事の内容を読んでないんですよ。タイトルだけ見て、確認程度で終わってしまう。そりゃそうですよね、世間の人にとっては、僕の出来事は「すげえ」って思うものであっても、日々の重大なことではないですから。改めて世の中はそれが現実なんだと痛感しました。
――記者会見も開かれましたよね。世間の反応がわかったので、だったら自分が責任を取ることを宣言したら、それをタイトルにしてくれるだろうと思ったんです。中身を読んでもらえないのであれば、タイトルで勝負するしかないと思ったんです。
――前回、木本さんの知らないところで投資をしていた人もいたと伺いました。その人たちにも弁済されたのはなぜですか。まず、自分の中で唯一誇れることは、「人生で逃げたことは一度もない」ということです。過去にも多額の借金を抱えたことがあったけど、逃げたことはなかった。だから、逃げるしかなかった当時も「なんとかしよう」と思う一心でした。
信用を失ったことや、世間の人に誤解されたことについては、当然だし、今後の人生で取り返していくしかないと考えています。
ただ、それ以上に自分の中で大きかったのは「あなたのおかげで投資がすごく危険なものに感じた」という声でした。
本来、投資は悪いことではありません。むしろ衣食住と同じぐらい大切な行為だと思っています。でも、僕の未熟な投資はギャンブルみたいなものだった。それを知った世間の人は「投資=怖いもの」と思いますよね。そういう悪影響を与えてしまったんだと。だからこそ、自分で責任を取ると決めたんです。
――でも正直、投資は自己責任ですよね。それは色々な人から言われましたし、有識者の方からは「バカだ」って言われましたよ。一件一件、弁護士を入れて裁判をしたら、僕に有利な判決になるのかもしれません。でも、その人との関係も終わるじゃないですか。
そうやって失っていくものを考えるのが自分の中では煩わしかった。そう、煩わしいというのが一番ですね。細かい話は抜きで、自分でケツを拭こうって。これは理屈じゃないんです。
ーー現在、弁済の状況はどのような感じでしょうか?FXで11人、不動産で5人、重複している方が4人いるので、合計12人の方に対しては全て返済を終えています。被害額が大きかった方とは話し合いの上で「ここから先は自己責任にするから」と区切りをつけていただいたケースも含めて、全体としては解決しています。
ただ、返済するために助けてくださった方がいるので、その方への返済は現在も続けています。
――大きな被害に遭いましたが、現在は投資についてどのように考えていますか?僕は投資は必要なものだと思っています。特に今の経済状態では、多くの人が学んで取り組むべきものです。
現状、僕には余剰資金がないため投資はできませんが、将来的には新NISAなど、公的な制度を活用して取り組みたいと考えています。
――失敗しないために今後心がけることはありますか?例えば株式投資であれば、その会社の決算書を理解できるようになって、その企業を応援する意味で、投資をすることを僕は目指しています。
以前の僕は売掛や買掛など、“基本のキ”すら理解していませんでしたから。今は色々なプロフェッショナルの方に話を聞いたり、勉強して、知識を増やしているところです。
――最初に投資を始めたときは将来の不安からでしたよね。これから投資を始めるとしたら、木本さんはどういう気持ちで臨まれますか?投資は儲けるものというのは一部の人の考え方であって、僕は「投資=資産防衛」と考えるのが良いと思っています。今、自分はお金のことで四苦八苦して、不安と日々戦っています。でもそういうときって一番学んでいる状態だと思うんです。
そして、この知識や経験は自分の一番の財産になる。要するにお金で四苦八苦しているから、お金のスペシャリストになれるんじゃないかと。だから地べたに這いつくばって資産形成することが、僕の人生の課題だと思っています。
――再び投資を始められる状態を100としたら、今の木本さんの状況はどの辺ですか?まだ10ぐらいですね。
あと、こういうことを言うと批判を浴びるかもしれないですけど、今回のことをチャンスと捉えようと思っていて。「何をしている人ですか?」と言われたら「人生を復活させる過程をエンタメにしようとしている人」と答えたい。
人生を復活させるシナリオを発信していき、0円を1円に変えていくとともに、自分が培ってきた投資の知識を皆さんにも届けて行けたらいいなと思っています。
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投資にはウマい話も多いが、投資の本質は基本に忠実であること。木本さんの経験は、その当たり前の重要性を改めて示している。堅実なポートフォリオで臨むのが、結局は大きな失敗を招かないコツなのだ。