長男にも譲れない大切な存在

この時代にヘビーデューティな一台を維持するのは、相応の覚悟が必要だ。だが、効率やコスパといった物差しでは測れない、この車だけの価値を荻野さんは知っている。
「燃費も正直良くないです(笑)。しょっちゅうガソリンスタンドに寄っています。でも、ランクルに乗るなら燃費なんて気にしちゃダメ。その代わり、給油タンクは巨大で130Lも入ります。満タンにする度に2万円は飛びますが、1回で1000キロ以上は走れる。この航続距離が、山に入る人間には何よりの安心感になるんです」。
フロントホイールの中心に備わる「パワーハブロック」。4WD走行時にタイヤと車軸を直結させるための機構で、過酷な環境を走るランクルの象徴的なディテールの一つ。
一般的には寿命を意識し始める20万km。だが、ランクルにとっては序章に過ぎず、荻野さんのなかにも「乗り換え」という選択肢は微塵もない。
「動物を乗せて重量が2トンになっても、この車は草むらや泥道もガガッと上がっていける。頼もしいですよ。街中では取り回しは悪いし、オーバースペックですけどね。大切すぎる存在です。売ることはまったく考えていません。
いま10歳の長男が免許を取った時に『これに乗りたい』と言えば考えますが……いや、やっぱり譲らないかな(笑)。僕が死んだらあげるよ、とは伝えています」。

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洗車はしない。最先端の機能も必要としない。獲物を追って山に入り、自らの手を汚して命の重みを噛みしめる。その傍らには、泥にまみれた“兄貴”が静かに佇んでいる。荻野さんとランクルの旅はこの先も深化しながら、どこまでも続いていく。