
運動は気持ちいいものだし、健やかな行為でもある。アートに触れることは、さまざまな気づきを得られ感性だって刺激される。そんな経験をぜひ我が子にも! とはいえ、どれだけ口や背中で語ろうとも、それは親のひとりよがりなのかも。伝えたい、だけど押し付けたくはない。その葛藤に終止符を打つ妙案を、デザインクルーのGOO CHOKI PARが絵本という形で示してくれた。
体が、頭が、心が走り出す。感性を刺激する号砲
絵本の主人公は「モニュ」。おそらく、絵本史上、もっとも柔らかい生き物。だからこそ、何にでもなれるし何でもできる。そんなモニュがまずとった行動とは……。
GOO CHOKI PAR(グーチョキパー)●浅葉 球(左)、飯高健人(中央)、石井 伶(右)の三人によって2015年に結成されたデザイン&アートユニット。彼らが標榜するのは、言語・思考を超えたビジュアルコミュニケーション。それが手法、場所、ジャンルを問わないボーダレスな活動を支え、グラフィック表現の境界を押し広げるとともに固定観念からの解放を実現する。
全容としてはいたってシンプルなストーリー。ただ、彼らがそこに込めた想いは強く、実に温かい。
飯高「(モニュの特性でもある)“何にでもなれる”。それは、言語化してきたわけではありませんが、感覚的に大事にした部分。『こうあるべきだ』みたいなことは絶対に言いたくなかったですし、個性が立ったキャラクターを作るよりはむしろ、自分を投影できるようなものがいいなと思っていました。モニュはまだ何者でもないかもしれませんが、見る人とともに成長していったりもする存在なんです」
不思議なことにページをめくるたび、なんだか背中を押してもらっているような、手を引いてもらっているような気持ちにさせられる。それはきっと、ストーリーだけでなくビジュアルも要因として挙げられるだろう。
浅葉「最初、モニュはひとりで走り始めますが、物語の終盤ではさまざまなものと出会い、触れ合っていく。その流れが、個人的にとてもいいなと感じています。走るという行為自体は、突き詰めるとひとりのものですが、その途中ですれ違う人や応援してくれる人、自然の音、都会を行き交うクルマの音など、さまざまな存在と出会います。そうしたものに触れながら成長していく姿や、世界とつながり、ひとつになっていくようなイメージが、この絵の中には詰まっているんじゃないかと思いますね」

その絵には、ちょっとした仕掛けも施してある。実は、ページにちなんだ数字やカタカナ、ローマ字のタイポグラフィーが紛れているのだ。
浅葉「それを探してみるのもまた面白いかもしれません。もしかしたら、見る子によっては我々の意図とは違う視点で何らかの文字を発見する可能性もある。そういったところも含めて楽しんでもらえればいいですね」
また、テキストに取り入れたオノマトペにも独自のこだわりが覗く。飯高さんは「絵の動きから想像し、なるべく聞いたことのない言葉にしたかった」と話し、それが読み手の想像力を掻き立てるきっかけになることを願う。
浅葉「読み聞かせって何回も繰り返し読むじゃないですか。そのなかで必然的に上手くなっていく。話も覚えちゃうでしょう。そのなかで、『るーりらるー』のような言葉の抑揚の付け方やイントネーションが、ご家庭によって変わったりするかもしれない。そのあたりも含め、親御さんも一緒になって楽しんでもらえたら嬉しいですね」
一冊を作り終え、浅葉さんは「めちゃくちゃ可愛いのができた」と充実感を滲ませ、飯高さんは「めっちゃ大変でした(笑)」と振り返る。石井さんもまた特別な感情を抱き、満足感をにじませる。
石井「ふたりは絵本を作りたいと前々から言っていましたけど、僕個人としては特に絵本に対してこれといった強いイメージはなかったんです。でも、やるとなってからめちゃくちゃやりがいを感じていました。今は、未来に残せる一冊を作り終えたという実感がありますね」
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