連敗を経て、階級を変え。決戦の日は間近!
――12月31日(水)のWBA世界同級・王座挑戦者決定戦(対 マイケル・オルドスゴイッティ)が目前です。井岡 これから最終的に、もう一段ギアを上げていくところです。前月からは身体のベースづくり、今では実戦練習も入ってきていて、大晦日に向けて仕上げている段階ですね。
僕のボクシング人生で積み上げてきたやり方もありますが、キャリアで初めて連敗を経験して、今回は階級を上げて挑戦するという決断をした。“すべてが新しい挑戦”なんです。今まで取り入れてこなかったトレーニングを中心にしていて、身体の作り方からまったく違う。
――では、大晦日は新しい井岡さんを見られる、と。井岡 見せられるように取り組んでいます。もう一度、自分の道に挑むために必要だったのは“破壊と再生”だと感じています。これまでは感覚に頼る部分が大きかったけれど、一度ゼロにして積み直している。フィジカルの強化もそのプロセスのひとつです。
――今も第一線に立ち続けている井岡さん。続ける力の源はなんでしょう?井岡 好きなことで評価や対価がついてくる。それがうれしくて、ほかに特別なモチベーションはいらないんです。もちろん難しさもあるけれど楽しい。
ボクシングは白黒がはっきり出る競技で、勝ちたい気持ちはいつも120%あります。勝った瞬間と負けた瞬間では、天国と地獄ぐらい違いますしね。
井岡 試合後は家族と旅行に行くんですが、勝ったときは何をしていても楽しいんですよ。「最強やな、最高やな」って思える(笑)。同じ景色を見ていても、全部が輝いて見えるんです。
でも負けたときは、ふと「これ、勝ってたらどれだけ楽しかったんやろ」と感じてしまう。旅行しているという事実は同じなのに、何でこんなにも感じ方が違うのか……。考えた結果、それは自分の優越感だけでした。
“勝たなければいけない”というプレッシャーはあるけど、準備をして、チームと全力で戦うプロセスは勝ち負けで変わらないことに気付いたんです。勝負の世界も普段の生活も同じくらい大事。どちらか一方に偏ると、歪みが生まれる。結果がすべての職業だけど、別に結果が出なかったからといって不幸になるわけじゃないんですよね。
全力で準備して、全力で戦い、そして自分の人生も豊かであること。これこそが理想だと思えたんです。
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勝負に生きながら、人生にも目を向けて。井岡一翔は成熟の入り口に立った。その静かな変化こそが、彼の強さをまたひとつ更新している。