② サトテルも夢中! ホームラン級の旨さに打たれる
「大衆中遊華食堂 八戒」

本連載(
トレンド最先端「ネオ・カツカレー」の衝撃!カレー細胞が推す、期待の3軒を紹介)で紹介してきたとおり、2000年以降、インドやネパール、パキスタンなどさまざまな国のホールスパイスを取り入れた「スパイスカレー」文化が勃興します。
そこに2010年頃、「町中華」のエッセンスがドッキング! 花椒をはじめ、中華料理に欠かせないスパイスをふんだんに使ったカレーが誕生し始めたのです。
私はこれを「ネオ・中華カレー」と命名。このムーブメントを牽引する、東西の名店へお連れしましょう。
まずは西の超重要店「大衆中遊華食堂 八戒」へ!

ネオ中華カレーのみならず、関西のスパイスカレー・カルチャーを語るうえでも外せない一軒です。
というのも、大阪におけるスリランカカレーの元祖「カルータラ」店主・横田さんと八戒店主の末広 収さんは同級生なんですね。若くして中華料理人として腕をふるっていた末広さんに、横田さんが「スリランカカレーを作ってみたので試食してくれないか」と頼んだのだとか。こうして試食と意見交換をもとに磨きをかけ、出来上がったのがカルータラのスリランカカレーというわけ。
末広さんは関西のスパイスカルチャーの始まりに立ち、その後の変遷もつぶさに見守ってきた生き証人なのです。
さらには、ご自身の中華料理にもどんどんスパイスをミックス。「osamu式」と銘打ったカレーには、12~14種ものスパイスが独自にブレンドされています。クミンや唐辛子、花椒、カルダモン、コリアンダー、クローブ……中国のみならずインドの風も柔軟に取り入れて、まったく新しい世界を切りひらいています。
とにかく何もかもが安くて美味しくてボリューミー! 八戒の「スパイス中華」を楽しみ尽くすには、ひとりの胃袋ではとても足りません。あれこれシェアできるよう、2~3人での予約を強くおすすめします。
カレーも1種だけじゃあまりにもったいない。
今月のカリィ(取材時はラム肉団子)、四川麻婆豆腐カリィ、ラムクミン炒めカリィといった「osamu式スパイスカリィ」3種がのった「あいがけカリィ3種」1850円。
花山椒のピリッとした痺れが実に爽やかな余韻を残す「四川麻婆豆腐カリィ」、これはもう、極上です。麻婆カレーを出しているお店はほかにもありますが、八戒のそれは本格麻婆豆腐でありながら、舌がちゃんと「カレーだ!」と認識できる絶妙なバランスに仕上がっています。
中華料理でおなじみ、羊×クミンのゴールデンコンビをカレーに落とし込んだ「ラムクミン炒めカリィ」も、美味しくないわけがない。「ラム肉団子」を煮込んだカレーもめちゃくちゃうまいんですよ! これこそ本式中華料理人の面目躍如、表面はカリッと香ばしく、中はほくほくジューシー。見つけたら絶対に頼んでください。
ワタリガニから出汁をとった海鮮系カレーも絶品です。どれもこれも末広さんの創作意欲が炸裂していて、目ん玉が飛び出る食体験。大阪のカレーシェフたちから「巨匠」と仰ぎ見られているのも至極当然でしょう。
あの阪神タイガースの4番・サトテルこと佐藤輝明選手も八戒の常連です。規格外のホームランパワーの源は、力強いスパイス中華カリィにあり! パワーがみなぎること、間違いなしです。
③ まさに横綱の迫力と貫禄! 排骨仕立てのカツカレー
「緑町 生駒」

西の横綱が八戒なら、東の横綱は「生駒」。私にとって“東京No.1のネオ中華カレー”です。
1973年に開業し、2023年に菊川へ移転オープン。移転前の店の看板には「台湾料理」と記されていましたが、それを求めて行くとびっくりしてしまうはず。
今や台湾料理のタの字もなく(笑)、「生駒料理」と称すべき唯一無二の中華×カレーワールドが広がっています。
真っ先に頼むべきは「排骨カレーチャーハン」。店主が大好きなカツカレーを中華風にアレンジした逸品で、ド迫力のビジュアルに違わぬインパクト大!な美味しさです。
「排骨カレーチャーハン」1100円。
なんと、すべてのパーツがカレー味。強火でパラパラに仕上げたカレー炒飯にとろりと絡むのは、ラーメンに用いる中華ベースに味噌や南インド系スパイス、カレー粉等々を加えたスパイシーでいて軽やかなカレー。その上にドンッと鎮座するのは、豚肉をカラッと揚げた「排骨」です。町中華の定番メニューですが、生駒ではなんと衣にカレー粉をまぶしています。
つまり、どこをすくってもカレー、カレー、カレー! 本当に夢のような、幸せを具現化したメニューです。炒飯・排骨とのマッチングにより、「カレーも食べたいけど町中華らしいメニューも捨てがたい!」という欲求まで完全に満たしてくれます。
「麻婆カレー飯 排骨トッピング」1400円
「麻婆カレー飯」に排骨をトッピングする、背徳的な合わせ技もぜひ試していただきたい! カレーがほのかに香る麻婆豆腐ではなく、麻婆要素もカレー要素もがっつり。それもケンカせず、素晴らしく調和がとれているのですから驚きです。生ビールをくーっとあおりつつ、思いっきりかき込んでほしい魅惑の一皿です。
他にも「回鍋肉カレー焼きうどん」など、未知なる中華×カレーの世界へと誘ってくれるメニューばかり。唯一の難点は、あまりの美味しさにお客が殺到、数カ月先まで予約がとれないところでしょうか。夜にふらっと入るのは厳しいですが、ランチは行列に並べばチャンスを掴めるかもしれません。「待った甲斐あり」な美味しさなのは間違いありませんから、ぜひチャレンジしてみてください!
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「町中華×カレー」の名店たち、いかがでしたか?
あらためてお伝えしたいのは、これは“日本だからこそ生まれた食文化”であるということ。
実はカレー界には「麻婆豆腐はカレーか否か?」という永遠の命題があります。スパイスや唐辛子とともにぐつぐつと煮込むわけですから、構成要素からするとカレーといえる。でもやはり「麻婆豆腐はカレーではなく中華料理」というイメージが根強いですよね。
ところが八戒や生駒は、麻婆豆腐でありカレーでもある「麻婆カレー」を発明してしまった。これって、中国人のシェフからはなかなか出てこない発想だと思うんです。彼らのなかでは「中華料理」が第一なので、麻婆豆腐をカレー風味にアレンジすることはできても、両者が対等に並び立つ麻婆カレーには抵抗がある。
日本人は「外来文化を使いこなすのがうまい」と言われるように、文化的な背景の縛りが薄いぶん、自由自在に枠組みを飛び越えられるのでしょう。カレーだって中華料理だって美味しいものは美味しい。どちらが主従かなんて、関係ないのです。そこもまた、町中華のジャンルレスな魅力とも通じます。
中華とカレーの融合にはまだまだ進化の余地がありそう。昔懐かしの町中華で花開いた、ネオなカレーの未来に今後もどうぞご注目ください!
▶︎カレー細胞さんのインスタはこちら!※写真や内容は、取材当時のものです。