ブランド豚の一大産地ゆえに高品質な豚肉が特徴
総論はこの程度にとどめ、そろそろ各論へと移る。
特徴は乏しいがハイレベルな店舗がひしめく高崎市において、唯一、「高崎らしさ」を挙げるとすれば、豚を巧みに採り入れたラーメンを出す優良店が目立つ。この一点に尽きるだろう。群馬県は、30銘柄以上のブランド豚を擁する豚肉の一大産地で、高品質な豚に事欠かない。このため、豚骨スープやチャーシューのクオリティが、おしなべて高いのだ。
代表格は、1993年に創業した「だるま大使」だ。同店は、高崎市はもちろん、群馬の地にラーメンカルチャーの灯を点した“群馬豚骨”のレジェンド。「自家製ラーメン大者」、「ラーメン伝次平」、「ラーメン赤沼」など、豚骨スープに豚チャーシューを合わせたG系ラーメンも、得意中の得意。ちなみに、「だるま大使」と「大者」は、数ある群馬のラーメン店の中でも必訪店中の必訪店だ。
では、ここからは、高崎のラーメンシーンをより具体的に見ていこう。上述したとおり、高崎のラーメン店で提供される1杯は千差万別だが、敢えてカテゴライズを試みれば、① 古くから高崎に根付き、歴史を紡いできた老舗、② 1都3県の実力店出身、または実力店に影響を受けた新進気鋭、③ 豚骨系(純豚骨・ガッツリ系)の3タイプに大別できる。これらのラーメン店がモザイク状に入り交じり、全体として高崎のラーメンシーンを構成している状況だ。
今回のコラムでは、そんな綺羅星の如き高崎の優良店の中から、特にオススメする4軒を厳選してご紹介したい。いずれも、高崎市のラーメンを語る上で欠かせない存在。高崎駅で気持ちが切り替わるあの瞬間を、今度は、1杯のラーメンを通じて味わってみてほしい。
名店① 開店前に売り切れもあり得る「中華蕎麦 鳴神食堂」
まずご紹介するのは、「中華蕎麦 鳴神食堂」。オープンは、2020年11月。高崎市はもちろん、群馬県内でも屈指の実力店として知られる。その人気ぶりたるや、開店前でもその日の記帳が埋まり、完売になってしまうことがままあるほどである。
上述したとおり、同店の店主・中島氏は、都内の実力店「柴崎亭 つつじヶ丘本店」のご出身。修業先での研鑽により培った技術を自分なりに消化し、「鳴神食堂」ならではの味わいを紡ぎ出す。

同店が提供するレギュラー麺メニューは、「中華蕎麦」、「塩 中華蕎麦」、「煮干し 中華蕎麦」、及び各々の具なしバージョンである「かけ蕎麦」。
芳醇な貝のうま味と華やかな鯛の香味を優しく寄り添わせ、すするにつれて海の息吹がじんわり迫る「塩 中華蕎麦」が特に高い支持を獲得しているが、私がオススメするのは、メニューリストの筆頭を飾る「中華蕎麦」だ。

牡蠣の絢爛なうま味を主役に据え、魚介出汁を絶妙な匙加減で折り重ねたスープは、すするにつれて、スープ中に息づく素材の風味が層を成し、豊かな余韻の海を生む。キレとコクを兼ね備えた醤油ダレと深みのある牡蠣の滋味も、丼の中で見事に共存・競演し、淡麗系でありながらも、しっかりと「芯」のある味わいを構築。
歯応えと喉越しを高い水準で両立させた自家製麺も、スープを過不足なく抱き止め、口元へと運び込む、「このスープにしてこの麺あり」とでも言うべき逸品。
サクリと硬質な食感が「箸休め」として会心の活躍を演ずる「レンコン」、スープの味わいにさらなる奥行きを添える「鴨チャーシュー」などのトッピング類も、まさに「熟慮の上の配材」といった趣だ。
地方にありながら都内淡麗ラーメンの“風”を軽やかに纏う、多様性の坩堝・高崎に相応しい1杯。同地には、地方発でありながら、全国水準を競える優良店が多数存在するが、「鳴神食堂」は、まさにその代表格と言えるだろう。万全の態勢で記帳し、是非、珠玉の味わいに舌鼓を打ってもらいたい。
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