ドームストラットバーで補強された美しく剛健なパワーユニットに、伝統のビ・ターボ直6エンジンを搭載。「僕は昔からシルキーシックスが大好き。エンジンの回り方も、ちゃんとあの頃の味が残っている。踏み込んだ瞬間の滑らかさと上質なサウンド。速いのに穏やか、それがアルピナです。高回転まで回しても荒っぽくならず、耳に心地いい」。
安東さん、走りの印象は?
「ついに529馬力! でもアルピナは数字じゃないんです。スポーツプラスで2速、ほぼ停止から踏んでも唐突さがない。気付いたらワープしてる感覚です。静粛性も高く、必要な音しかしない。人工的じゃないのがいい」。
確かに蹴っ飛ばすじゃなく、背中を押す大人の速さです。
「あぁ、アルピナだな、ってハンドルを握った瞬間にわかる独特の味。ロールしないのに突き上げない、しなやかに流れる。必要な音だけが響く――これが上質。BMWのMモデルとはまったく違う世界観です」。
「ロールしないのに突き上げない。速いのに疲れない。これが、上質なんですよねぇ、やはり」。
マニュアルは皆無ですね。
「断然、MT派としては寂しいですが、700Nm超えのトルクでは現実的じゃない。2ペダルでもアルピナの味はあります。“操る歓び”より“完成度を味わう歓び”。これでいいと思います」。


内装はどうですか?
「そうそう、カーボンなのは残念。アルピナはベージュやタンがやはり似合う。スポーツサルーンなのにウッドパネルというギャップがいいんです。最後ならウッドで〆てほしかった。あとシートベンチレーターも欲しかったなぁ」。

アルピナロゴを刻んだゴールド色「オロ・テクニコ」のパドルで、8速ATを優雅に、軽快に操る。「形もサイズも絶妙で、触れるたびに上質さを感じます。思わずシフトしたくなる心地良さと快音で、ついドライブが長くなる。そして、やっぱり内装は黒よりタン×ウッドの組み合わせが恋しい(笑)。そういう余裕のある色使いが“らしさ”なんです」。
内装の話で思い出しましたが、昔乗られていたB3 Sに再び出合ったとか。
「はい。手放してから15年後にテレビ番組で同じ個体と再会したんです。オーナーさんが大事に乗られていて。ラヴァリナレザーの貴賓あふれる雰囲気も当時のまま。内装にヤレはなく、品質の高さに驚きました。
いま思えばテレビ局の社員アナウンサーだったとき、ロケ終わりの汗染みTシャツでディーラーに行っても丁寧に接客してくれましたし。アルピナは見た目でお客を選ばない。そこにも上質さを感じましたね」。

では最後に、B4 GTをひと言で、お願いします。
「上質のまま強い。飾らないのに速い。そして疲れない。僕の“基準”はこのクルマでもちゃんと生きてました。ウッドパネルとベンチレーターが付けば完璧でしたが(笑)」。
仕様次第では満点ということで(笑)。“最後のアルピナ”に乗る切なさもありつつ、自動車グルメが選ぶ、贅沢なクルマでした。
フリーアナウンサー安東弘樹●1967年、神奈川県生まれ。愛車遍歴およそ50台を誇る生粋のカーガイで、ドライブはただひたすらクルマを運転していたい派。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。現在はBMW X5 PHEV、プジョーの電気自動車 e-208などを所有する。
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OCEANS12月「本物だけが欲しいのだ!」号から抜粋。さらに読むなら本誌をチェック!