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2025.09.26

ライフ

引き出し業者による暴力や監禁も……引きこもり支援の実態をルポライターが解説


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「日常に潜む社会の闇」とは......

日本に146万人もいるとされる“引きこもり”。長期化する状況や当人・両親の高齢化の問題に地方自治体や公的機関も支援に乗り出しているが、引き出し業者の悪質さも指摘されている。

ルポライター村田らむさんが当事者たちから聞いた支援の実態とは?
案内人はこの方!
村田らむ●1972年生まれ。ライター、イラストレーター、漫画家。ホームレスやゴミ屋敷、新興宗教組織、富士の樹海など、アンダーグラウンドな場所への潜入取材を得意としている。キャリアは20年超え、著書も多数。自身のYouTubeチャンネル「リアル現場主義!!」でも潜入取材や社会のリアルを紹介している。

村田らむ●1972年生まれ。ライター、イラストレーター、漫画家。ホームレスやゴミ屋敷、新興宗教組織、富士の樹海など、アンダーグラウンドな場所への潜入取材を得意としている。キャリアは20年超え、著書も多数。自身のYouTubeチャンネル「リアル現場主義!!」でも潜入取材や社会のリアルを紹介している。

日本に146万人、高齢化していく引きこもり

「引きこもり」とは社会参加が可能な年齢になっても家に留まり続けて、家族以外と関係を持たない状態のことだ。厚生労働省は、「就学や就労、交遊などの社会的参加を避け、原則6カ月以上家庭にとどまり続けている状態」と定義している。内閣府の2023年の推計では、15歳から64歳で146万人が引きこもり状態にあるとされた。
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写真はすべてイメージです。

写真はすべてイメージです。


引きこもり、というとどうしても学生〜20代くらいの若者をイメージしてしまうが、実際には中高年層の方が多い。男性と女性の差は少ない。中高年層の引きこもりの場合、当然親は高齢者だ。50代、60代の引きこもりを80代以上の親が面倒を見る「8050問題」はすでに社会問題になっている。

引きこもり問題やニート問題は、「本人にやる気がないから」と片付けられることも多い。だが、人にはさまざまな理由がある。いじめを受けてそれ以来外に出られなくなったという人もいるし、先天性の精神疾患を抱える人もいる。引きこもっている間に、病気がひどくなってしまう場合も多いだろう。親が原因で引きこもりになるケースも少なからずある。

支援が難しい多様なケース

女性が逃げ込むためのシェルター(駆け込み寺的な存在)で働く人から聞いた、とあるケース。

母親にパニック障害があり、当時大学生だった娘が登校すると発作が誘発されてしまうという。娘の気を引きたいこともあってか、娘が家から出ると暴れるし、救急車も呼ぶ。娘は外に出づらくなり、留年してしまった。このままではまずいと思い、シェルターに駆け込んできた。施設側から母親に連絡して、了承は取れたはずだったが、母親から娘に対する連絡は続いた。

「今から死ぬから」。
「あなたがいないとやっていけない」。
「産んでごめんね」。

というようなメールを受け続け、最終的に女性は、「母親を守れるのは自分だけだ」と思い詰めるようになり、シェルターを出て帰宅した。そして母子ともに引きこもりになったという。



引きこもりにはそもそも外部と接触させてはいけない段階の人もいる。実話をもとにした漫画、『「子供を殺してください」という親たち』の作者であり、部屋にこもる人と精神科医療への橋渡しを続けている押川剛さんに以前インタビューしたことがある。

作者は統合失調症、うつ病、強迫症、パニック症、依存症など多様な背景の対象者を説得して医療につないできた。家族や近隣に危害が及ぶ恐れがある事例もあったという。

事実をモデルにした漫画では、庭で全裸でバットを振り、家族の猫を殴り殺した人物が登場していた。そういう人はそもそも、外に出すのは問題がある。被害が出てからでは間に合わない。「引きこもりは外に出せばいい」では問題は解決しない、難しい問題なのだ。



僕の知人の女性が、引きこもり支援の集会に足を運んだと聞いた。彼女はかつて支援する側で働いていたが、体調を崩し、現在は生活保護を受けながら一人暮らしをしている。支援される立場になり、改めて支援の現場を見てみようと思ったという。

来場者は親世代が多く、いわゆる8050問題に直結した内容だった。若い単独女性の来場者は少なく、彼女はかなり目立っていた。

当事者が登壇して語る体験談は興味深かった。話している間に、彼女自身が「引きこもり」として支援されても良い立場でもあると知った。彼女自身、現在は心身の状態は落ち着いているが、何よりお金がないので、あまり活発に外に出られない状態だ。

高額な支援サービス。集会での迷惑行為も

彼女が違和感を持ったのは、まさにお金についてだった。そのイベント自体は無料だった。だが、そこから支援する団体に入会すると、かなり高額な費用がかかることが分かった。

入会金で3000円、月の会費が1000円。それだけでも貧困層にとっては高いのに、個別に相談すると1回10000円以上、電話相談も1回5000円とかなり高額だった。訪問相談はさらに値段も高くなるし、交通費もこちら持ちになる。

経済的に彼女には利用できないサービスだった。引きこもりは家計をダイレクトに圧迫する。金銭的な悩みがある人も多いと思うが、困窮層には利用することがそもそも難しい。
「金のためにやっている」とまでは思わなかったが、「払える人」しか継続できないサービスは疑問に思わずにはいられなかった。



そして、彼女にとって不愉快なこともあった。会場にいる人たちと挨拶して、名刺をもらったのだが、その後多くの人に声をかけられた。

「一緒にうちの会社で働きましょう」。
「一緒にVTuber活動をしませんか」。

かかりつけの医者に就労を制限されているので、そう簡単に働くことはできなかった。女性は断ったが、それでも引き下がらず、延々と会場内でついて回られた。
 
「連絡先を交換しましょう」。
「あなたの家に訪問させてください」。



なかには「訪問スタッフ」を名乗る男性からこんな誘いを受け、しつこくつきまとわれたという。スタッフをしている人は、元々引きこもりの当事者がとても多い。迷惑行為をしているつもりはなくても、空気を読めず近づいてしまうことがあったようだ。

本人にやる気があったとしても、スタッフとして活動できるかどうかは、しっかりとした公平な目で判断した方が良いだろう。もちろん誠実に取り組んでいる人もたくさんいるし、それによって救われる人もいるのだろうが、問題点も山積していると感じたそうだ。

引き出し業者の実態は悪質なケースも

ただ、上記のようなケースよりずっと過激な「福祉」もある。「引き出し屋」と呼ばれる業者は、家族からの依頼を受けて、引きこもっている本人の意思に反して自宅から連れ出し、施設での生活を強いる。

本人を引き出す際に、財布、身分証、携帯電話などを取り上げてしまうこともある。入れられた施設では監禁に近い状態になるという。実際に暴力を受けたり、自殺してしまうケースもあったそうだ。



ネットの掲示板を見ていると、「自宅にいたら屈強な男がやってきて、自動車に乗せられ施設まで運ばれた」などの体験談をよく目にする。逃げ出しても、見つけられてそのまま連れ戻されたという話も聞く。

もちろん、そこまでのことをする「引き出し屋」が無料なわけはない。値段は業者によってまちまちだが、中には1000万円以上の高額な料金を取る業者もあるという。家族としては「そこまでしても子供を外に出したい」のだ。 



僕は昔から、ホームレスを利用した貧困ビジネスをよく見てきた。ホームレスを慎ましいアパートに入れて、生活保護費から高額な家賃などを払わせるシステムだ。ただ最近ではホームレスも減り、商売がやりづらくなってきたという話を聞く。

そんな状況で、貧困ビジネスをやっている人たちが、日本に100万人以上いる引きこもりに目をつけないわけがない。これからは、「引きこもり当事者を支援する」という名目で、人権侵害をして、収奪する業者がどんどん増えていくと思う。

「高齢者の親が死んだら、引きこもりの自分は死ぬしかない」。
「高齢者の自分が死んだら、引きこもりの子供は死ぬしかない」。
というのは、親子ともに将来の不安を強く掻き立てられると思うが、安易な選択をしない方が良い、と僕はいいたい。 

▶︎村田らむさんのYouTubeチャンネルはこちら!

村田らむ=文・写真 池田裕美=編集

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