名店① 非日常とコース感が味わえる「酒楽亭 空庵」

トップバッターを務めるのは、「酒楽亭 空庵」。
名古屋市の南東部に位置し、江戸時代の名残を残す趣豊かな町並みが旅情を掻き立てる「有松」エリア。有松の町並みは、国の重要伝統的建造物群保存地区に選定されており、昔ながらの景観が極力手を加えない形で保存されている。観光スポットとしても十分見応えのあるエリアだ。
「酒楽亭 空庵」は、そんな有松エリアにひっそりと佇む、知る人ぞ知る名店。最寄り駅は、名鉄名古屋本線・有松駅。同駅から店までの距離は、約700m。瀟洒(しょうしゃ)な町並みを眺めながらゆっくりと歩を進めても、15分程度である。
お店の近隣には、日本の歴史の転換点となった、「桶狭間の戦い」の舞台、桶狭間古戦場公園もあるので、そちらに赴きしばし戦国の世に思いを馳せてから同店へと足を運ぶのも一興だ。

「入店してから退店するまで一貫して、ハレ(非日常)の体験を来訪客に提供しようとする、飲食のプロとしての真摯な姿勢」。同店の魅力を端的に表現すれば、そのひと言に尽きるだろう。
格式と趣が漂う日本料理店のような外観から、入店するとすぐに眼前に広がる瀟洒な日本庭園まで、席に着く前から食べ手に高揚感をもたらす仕掛けが満載。私のオススメは庭園を眺めながら食事を楽しめるカウンター席だ。大きく開かれたガラス窓越しに展開される迫力の大パロラマ。それだけで食事が普段の何倍も美味しく感じられるに違いない。

現在、「空庵」が提供するレギュラー麺メニューは、「鴨はちらーめん」、「塩ろくらーめん」、「梅吉らーめん」など。いずれも甲乙がつけ難い完成度を誇るが、初訪問であれば筆頭メニューである「鴨はちらーめん」を召し上がっていただきたい。
ラーメンを注文してから待つこと2分程度。最初に提供されるのはラーメンではなく前菜だ。同店は、ラーメンを出す前に前菜と鴨葱皿を提供しており、それらをじっくりと堪能するのもお楽しみのひとつとなっている。


鴨葱皿の鴨肉は、直下にセットされたIHヒーターで自ら焼いて戴くスタイル。この鴨葱皿も、「空庵」をスターダムへと押し上げた起爆剤のひとつ。鴨肉はスープに浸すと味変要素としても八面六臂の活躍を演ずるので、ぜひラーメンが提供されるまで食べ切らずに残しておいてもらいたい。
前菜、鴨葱が提供されてほどなくすると、満を持してメインディッシュであるラーメンが登場。

「鴨はちらーめん」は、丼の隅から隅まで、鴨の風味に満ち溢れた1杯。鴨特有の深いうま味と雄々しい野趣味を十全に活かしたスープは、まさに滋味の塊。素材の持ち味を包み隠さず表現しようとする姿勢は、スープのみならず麺・トッピングにも貫かれ、まるで天然素材をラーメンという形態でいただいているかのような感覚が味わえる点も、「空庵」ならではの魅力だろう。
既存のラーメンの模倣に陥らず、作り手自らの頭でまったくの白地から創作された稀有な良杯。市街地から離れた郊外にありながら、平日・休日を問わず訪問客が絶えない同店。実際に足を運んでみて、その理由の一端が垣間見えたような気がした。
3/5