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会社の外に出たら、長い老後が待っていた

もう1つは、これから定年を迎える人たちへ。
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「仕事しかしてこなかった自分への自戒をこめて、会社の外でも内でもやりたいことを見つけましょうと伝えたい」と話す。

河野さんは広告マン時代、やりたいことが3つあった。自分で寿司を握れるようになりたい。ピアノを習いたい。英語をペラペラしゃべれるようになりたい。

出張寿司では、お客さんの自宅などプライベートの場で握ることが多い(写真/河野透さん提供)

出張寿司では、お客さんの自宅などプライベートの場で握ることが多い(写真/河野透さん提供)


それらは決して「定年後の夢」ではなく、30代でも40代でもやろうと思えば、いつかはできると思っていた。でも、結果として38年の在職中には、ついにその「いつか」はこなかった
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「ピアノは姉が習っていて、僕も子どもの頃に習いたかったけれど、親父が許さなかったんです。昔だったし、ピアノは女がやるものだってね。

英語は30歳までにペラペラになるぞ! と勢いこんで、仕事が終わってから英会話スクールにも通ったんですけど、挫折した。夜は接待で飲み屋ばっかりになって(笑)。習い事は好きなんだけど続かない」

河野さんの毎日は残業と接待。仕事のことばかり考えて猛烈に働いた。結果に結びついて、業績も給料も上がる。年齢が上がると河野さんいわく「なんとなく自動的に」役職もあがっていく。そういう時代だった。

そして、62歳で会社の外に出たら、長い老後が待っていた

僕の“いつか”は定年後になったけど、やりたいことがあってよかったと思います。最初はお寿司。そのときは寿司屋になろうなんて思ってもいなかったけど、習い始めたらおもしろくなった。ピアノはようやく3年前から習い始めて、指が全然動かないんですけど、去年の8月、初めて発表会にも出ました。先生も生徒も全員年下で、おまけに男性は僕1人(笑)」

英語は独学。娘に勧められたスマートフォンの英会話アプリが楽しくてしかたないとか。もっとも英会話の際たる目的は、「若い頃から飲みに通い続けている新宿の思い出横丁で、外国人観光客と会話をしたいから」だそうだ。

組み立て式の作業台やテーブル、重ねて運べるネタケースは自作して初期費用を抑えたという(撮影/大澤誠)

組み立て式の作業台やテーブル、重ねて運べるネタケースは自作して初期費用を抑えたという(撮影/大澤誠)


エピソードには必ず酒の話がついてまわる。自身も自覚があり、月に10日の禁酒をしているという。「6の倍数なんです」と説明されて、一瞬、なんのことかわからなかった。

「お医者さんが言うには、3日に1回禁酒するよりは2日続けて禁酒したほうが体にいいそうなんです。だから4日飲んで2日禁酒という6日サイクルで、1カ月に10日禁酒している計算です。6の倍数の日とその前日が禁酒。でも女房の誕生日が6の倍数日だし、どうしても飲まなきゃいけない日にぶつかる場合は、前々日に禁酒します。振替禁酒日というやつで(笑)」

好きなことを全部やっちゃおうぜ

あっという間に80歳になった。寿司屋稼業に習い事にと、精力的に活動する河野さんだが、「俺、まだ生きられるの?」という自問自答があるという。

「1歳児にとっての1年は人生そのものの長さ。10歳の1年は人生の10分の1でしょ。80歳の僕は人生の80分の1の速さで1年経っちゃうわけだから、どんどん時間が経つのが速く感じます」

「俺、まだ生きられるの?」という自問自答の答えを尋ねると、こう返ってきた。

「だから、好きなことを全部やっちゃおうぜ。お酒控えてどうすんの。やりたいことやって死ねるなら、それでいいじゃないか!」


桜井美貴子=ライター・編集者
東洋経済オンライン=記事提供

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