世界初のリサイクルダウン装置の開発秘話

ユニクロのダウンリサイクルの要となるのが、東レとの共同開発で誕生した、ダウン製品から自動でダウンとフェザーだけを取り出す”羽毛分離装置”だ。
世界初となる画期的な発明で、なんとこれまで手作業でしか叶わなかった繊細かつ緻密な工程を全て自動化することに成功したのだという。
開発担当の岡さんに話を聞いた。
東レ エンジニアリング開発センター部員の岡尚樹さん。
「世界的に見ても、ダウンをリサイクルする工程には人の手が不可欠でした。手作業で表面の生地をカットし、ダウンを取り出すことは効率の面で課題がありますし、また羽毛の吸引による健康被害のリスクも伴います。
このプロジェクトの原料のひとつであるウルトラライトダウン(以下、ULD)に入っているダウンは1着あたり40~60gほどで、通常のダウン製品より少ないのが特徴。それを手作業で取り出していては、手間とコストがかかります。どうにか自動化しなければ、このプロジェクト自体が進まないと思いました。
とはいえ、どうすればいいか全く検討もつかない状態で、本当にゼロからのスタートでしたね(笑)」。
世界中で前例のない、まったくの白紙状態から羽毛分離装置の開発は始まった。結果、岡さんは技術を確立するまで2年にわたって開発に打ち込むことになる。

装置のシステムには、東レがこれまで培ってきた繊維ポリマーなどの流れを解析するコンピューターシミュレーション技術の知見が詰め込まれている。
「羽毛とそれ以外のパーツの分離には、上昇気流を活用しています。コンベアに乗せた服をカットし、そこから風で攪拌(かくはん)して、表面素材や装飾品などの重いものは下に落とし、軽いダウンとフェザーだけが上に舞い上がるという構造です。
最初は試験機を何度も作り直して、どうやったら効率良くダウンが舞い上がるかを検証しました。風の流れ方や装置の形状・サイズなんかを地道に計算しましたね」。
本体は門外不出ゆえ、縮小した実験装置でご覧いただこう。左側に入れたダウンジャケットの切れ端を風で攪拌し、舞い上がったダウンとフェザーだけを右側に取り出すという仕組みだ。
この装置を使えば、1着に使われているダウンの9割ほどをリサイクルできる。ULDの場合は、月に約8万着のダウンを処理することができるそうだ。
「いまもダウンの回収率を上げる開発を続けています。回収量が上がれば、さらにサステナブルな取り組みに貢献できますからね」。
取り出されたばかりのダウンがこちら。古着だったとは思えないほど、柔らかく上質な感触だ。
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