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その見た目や言動が取り沙汰されることの多い小田。だがプレーヤーとしての実力のほうが、ある意味エグい。

この若さで既に全仏、全英、全豪を制し、ギネス最年少記録で世界ランキング1位(17歳35日)を獲得。

こういう非凡なプレーヤーは、競技の違いにかかわらず「勝つためにどうするか」という思考回路を持つ。だが小田はまるで逆。「車いすテニスを楽しみたいから、勝つ」というのだ。
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「“勝つために”が先にあると、何回か勝てばお腹いっぱいになっちゃう気がして。テニスを楽しみつつ自分でいろいろ発信したいから、勝つ。勝たないと、カッコつけたことも言えないじゃないですか(笑)」。

小田をはじめとしたトッププレーヤーたちが牽引する形で、車いすテニスのレベルがどんどん上がっている昨今。一度その試合を見てほしい。

スピードとパワー、洗練されたテクニック。選手たちのアグレッシブなプレーに圧倒されるはずだ。

「引退までにサーブで(時速)200kmを出したいですね。インパクトがあるし、車いすテニスのすごさを知ってもらうきっかけになるので。

そしてもっと、この“小田凱人”という名前を発信していきたい。ひとりの人間として、若い人から支持される存在になりたいですね」。

さて、冒頭で小田が語ったとおり、スーツとテニスはどこか通じるものがある。スーツは紳士の嗜みであり、一方テニスは紳士のスポーツだ。紳士とはいったい何かを、改めて聞いてみた。

「ギャップのある人……かな。一見紳士に見えないのに実は、という人に惹かれます。

プレー中は相手の届かない場所を狙って打ち、相手がいちばん嫌がる攻め方を考える。でも試合が終われば、握手を交わして讃え合う。そのコントラストがあるからカッコいいのかもしれない」。

そういう意味なら、小田凱人はもう立派なジェントルマンだ。傑出したテニスプレーヤーとしての顔と、どこにでもいる18歳の顔。我々はこの取材中ずっと、そのギャップに魅力を感じていたのだから。
小田凱人●2006年、愛知県生まれ。10歳から車いすテニスを始めると、瞬く間にその才能を開花させる。ジュニア時代から現在まで数々の世界最年少記録を達成。全仏2回、全英、全豪を制し、24年のパリ・パラリンピックでは金メダルを獲得。車いすテニス界のホープとして国内外で支持されている。

新田桂一(ota office)=写真 菊池陽之介=スタイリング TAKU for CUTTERS(VOW-VOW)、加瀬友重=文

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