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2025.02.22

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スーパーボウルでケンドリック・ラマーが仕掛けた“革命”の正体。その全容をHIPHOP解説者が深掘り



連載「HIPHOP Hooray feat.SGD」とは......

つい先日行われた第59回NFLスーパーボウル。ケンドリック・ラマーによるハーフタイムショーは、“史上最も視聴された”といっても過言でないほど話題になった。

あの十数分のパフォーマンスに込められたストーリーとは? HIPHOPに精通するショットガンダンディさんがその全容を解説。
案内人はこの方!
ショットガンダンディ(ShotGunDandy)●HIPHOP翻訳家。幼少期から沖縄で育ったマルチリンガルのアメリカ人。HIPHOPの深い知識を活かして楽曲の和訳やスラング、メッセージやリリックの意味をYouTubeなどで解説し話題を呼んでいる。ビートサンプラーバトル「King of Flip 2023」ではベスト4入り。Instagram:@shotgundandy X:@ShotGunDandymk

ショットガンダンディ(ShotGunDandy)●HIPHOP翻訳家。幼少期から沖縄で育ったマルチリンガルのアメリカ人。HIPHOPの深い知識を活かして楽曲の和訳やスラング、メッセージやリリックの意味をYouTubeなどで解説し話題を呼んでいる。ビートサンプラーバトル「King of Flip 2023」ではベスト4入り。Instagram:@shotgundandy X:@ShotGunDandymk


皆さんいかがお過ごしでしょうか? ShotGunDandy参上です。
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アメリカで最も見られているNFLの決勝戦、スーパーボウル。今年は世界中のHIPHOPファンを感動させたケンドリック・ラマーのハーフタイムショーが特に注目されていた。

今回はそんなケンドリックのショーで描かれていた意味深なストーリーについて、ここで触れたい。

「演出全体がゲーム」。その意味は?

フィールド上にはプレイステーションのコントローラーの形をしたステージ。モニターに見立てた観客席では、ゲームの起動画面の描写から始まる。

起動が終わるとサミュエル・L・ジャクソンが演じる「アンクル・サム」が登場し、「みなさん!アメリカの偉大なゲームへようこそ!」と、“ゲーム”が開始される。

「アンクル・サム」とは、第一次世界大戦中に軍人をリクルートするポスターに使われ、一気に認知度を上げたアメリカを象徴するキャラクターだ。普段は白人のキャラクターだが、黒人であるサミュエルに演じさせることで、簡単に言えば、「白人たちの機嫌をとるためにゴマをする黒人」という皮肉を込めた演出なのである。

ちなみにサミュエルは、タランティーノ監督の『ジャンゴ』という映画で、同じような役割のキャラを演じたことがある。


この“ゲーム”は、大きく分けて2つのテーマを持っている。「アメリカ政府が作った社会の中で黒人として生き抜くことの意味」と「ケンドリック・ラマーがアメリカに仕掛けている革命」だ。

コントローラーに見立てたフィールド上でパフォーマンスをしているケンドリックと、アメリカ国旗を表す赤、白、青の服を纏った多数のダンサーは、フィールド上に閉じ込められた状態でパフォーマンスという名の“ゲーム”をさせられている。

これは「黒人として、アメリカというゲームの中に囚われてプレイをさせられている」ことを描写しており、政府側に付いた黒人系のアンクル・サムに制御されながら生き抜く展開を見せている。

ゲームの起動と紹介が終わると、ケンドリックが車の上で早速黒人として生きる苦悩や葛藤、誇りなどを静かにラップしながら登場。その間、車の中からは次々と人が出てくるが、ほぼ全員黒人なのも意味深である。

ハーフタイムショーの解説動画はこちら!



ラップが終わると「今革命がテレビ放映されようとしている。あなた方が選んだタイミングはよかったけど、人選がダメだった」と発言。

これはギル・スコット・ヘロンというアーティストによる曲『革命はテレビ放映されない』へのオマージュであり、「政府のプロパガンダによって黒人の人権や革命は規制されている」などの思想を持つ黒人たちにとっては、重要な曲だ。

ケンドリックがこのショーに込めたのは「今から革命を起こすけれど、アメリカ政府はスーパーボウルというアメリカを象徴する場で、俺をコントロールできると思っただろ? 大間違いだ! 俺をコントロールすることはできないぞ!」という想いである。

彼は操作されるゲーム内で反旗を翻すプレイヤーということである。
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各曲の持つメッセージが演出に重なる

次の曲『squabble up』は「構えて喧嘩しろ」という敵に対して使うスラングであり、まさに政府に対して喧嘩腰でスタートするのだ。

そんな曲を聴いたアンクル・サムは案の定、「なんだ今のは!? うるさすぎる! 狂暴過ぎる! ゲトー過ぎる! お前はゲームの遊び方もしらないのか?」と、早速注意という名のコントロールをしてくるのだ。

それを受けて次に披露したのが『HUMBLE.』、直訳すれば「謙虚」という曲である。つまりここではアンクル・サムの注意に従ってしまったのである。

ステージ上では赤、白、青の服に身を包んだダンサーたちがアメリカ国旗の形を取るも、国旗は真ん中で分断されている。
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これは言うまでもなく「政治や宗教、人種などさまざまな理由で分断したアメリカで、1人の黒人としてゲームをプレイしている」描写でもあるが、国旗をかたどる黒人ダンサーたちが奴隷制度を思い起こさせたり、さまざまな形をとってアメリカ内で生きる黒人社会の歴史も表している。

次の曲『DNA』には「俺のDNAの中にある黒人というルーツを誇りに思うことは忘れちゃいけない!」という強い思想が込められている。その次曲、『euphoria』は元々ドレイクに向けたディス曲だが、この場でラップをするために抜いてきたリリックも、“ゲーム”というテーマにちゃんと沿っている。

最新アルバムのタイトルでもあるアメ車「GNX」の上でラップを披露するケンドリック・ラマー。この日着用していたデニムは実は「セリーヌ」である。

最新アルバムのタイトルでもあるアメ車「GNX」の上でラップを披露するケンドリック・ラマー。この日着用していたデニムは「セリーヌ」。


次の曲は『man at the garden』。ここでは黒人であるせいで、ほかの国民が持つ権利を同等に享受できない点について、アメリカ政府に指摘する内容である。つまり人種差別に基づいた人権の違いだ。

再びアンクル・サムが登場し「おいおい、仲間を連れてきたみたいだけど、それはチートコードだ! スコアキーパー、1点減点せよ!」と発言。ここの減点も、ゲームを意識しながらも「刑務所へ送る」と「命を取る」を比喩したものである。

「仲間たち」はもちろん「ギャング」という黒人のステレオタイプをイメージしている。だが、それ以上に、白人よりも黒人が逮捕されやすいこと、重い刑を科せられる確立が高い社会問題を意識している。

自身のDNAに誇りを持って想いのままに生きると、アンクル・サムに減点という名の刑罰を喰らってしまうのだ。

次の曲『peekaboo』では「黒人同士の殺し合い」という社会問題を描写している。内容も黒人同士が殺し合う状況を描写している曲であり、アメリカ政府がその問題を解決しようとせず放置していることを訴えているのだ。
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