もともと、過疎化に悩む地域でもあったが、地域に活気を取り戻したいと、市と市民の有志が資金を出し合い、大洲城の天守閣を再建したのが2004年のこと。近隣の観光客が訪れる名所とはなったものの、全国にある他の城との差別化ができるわけではなく、数百円の地元の銘菓を買って帰る日帰り客がほとんどで、地元にはさほどお金が落ちない。
そこで、市から相談を受け、代表の他力野淳氏が提案したのが、再建された天守閣での「城泊」というアイデア。地元の人々の心の拠り所である天守閣に、観光客を泊めて良いのか。市が計50回以上の説明会を開き、地元住民の理解を取り付けていった。そうして、日本初の城泊が誕生したのだ。
ただ城に泊まるだけではなく、地元の文化を「体験」として感じてほしい。そう考え、空港からのトータルな体験としてのキュレーションも行った。空港ゲートでは、甲冑姿の武士が到着から車への案内を行い、チェックインの後は、ゲストに「城主」として、城泊開始にあたり、新しく市があつらえた甲冑に着替えてもらい、火縄銃による祝砲と地元の有志による甲冑姿の「家臣」の歓迎を受けて守閣に向かう。
火縄銃の技術は、地元の有志によって継承されてきたが、一泊132万円(1泊2名利用・2食付き)からという城泊で地域にお金がまわり、その術を補助金を使うことなく保つことができるようになった。文化を「ただ保存する」だけでなく、観光資源とすることで、サステナブルな保全が可能にある好例だろう。
銅加工メーカーのオーナーが所有した築100年の邸宅を改装した「アカガネリゾート 京都東山 1925」
さらに、バリューマネジメントは「まだ、同じ手法で守れる歴史的な建造物はたくさんある」と、蓄えた知識をより多くの場所に適応するための財源として、宿泊会員権「VMG Hotels Ownership Key」の販売を行うことを決めた。現在同社は前出の大洲城のほか、福山城(広島県)、丸亀城(香川県)の3城の「城泊」を手がけるが、3種類ある会員権のうちのひとつでは人気の城泊を優先的に予約できる。
「現在22の物件を持っているが、将来的にはもっと広げてゆき、世界的なホテルチェーンに伍するものに育てていきたい」と担当者は語る。
伝統建築の修復に職人が関わることで、技術の継承にもつながる。会員権は、建物を保存するだけではなく、未来に繋いでいくための「志」に共感した人々が、共に所有することで守り続ける、「伝統のシェアリングエコノミー」の一つの形と言えるのかもしれない。