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世界中をつなぐ海に、ひとつのルールをどう適用するのか



井植 IUUは、海洋環境の中でとても大きな問題です。魚の乱獲、無報告(獲った魚を報告しないこと)などの違法漁業を取り締まらないと、私たちがどんなに海の生物資源を守っていこうと訴えても解決にならないし、未来につながっていきません。

角南 IUUは今いちばんの問題ですね。せっかく皆でルールを決めても、それが簡単に破られてしまうことが問題です。陸地の場合はいたるところに防犯カメラもついていますし、悪いことをすればすぐに捕まります。ところが海は地球上の面積の7割を占めていながら、防犯カメラが付いているわけではありません。違反を取り締まるにはいろいろ工夫をしなければいけないんです。

▶︎IUU漁業について詳しくはこちら!

なお、PALM8の開催地だった福島は、原発処理水の海洋放出が課題です。中国は日本全体から、韓国は福島を含めた8県からの水産物の輸入を禁止しており、福島の漁業者は出荷制限や風評被害などの厳しい状況に置かれているのです。我々はPALM8の後も、福島や直近地震で被災した能登などの地域をはじめ全国の漁港や漁村を回り、地元の人たちと盛んに議論しながら活動を続けているんです。

井植 笹川平和財団としても、海洋問題にはかなり長い間、取り組んでいらっしゃいますよね。

角南 笹川平和財団と海洋政策研究財団が2015年に合併し、今にいたりますが、以前から海洋問題に取り組む唯一の民間財団として活動してきました。政策面から海洋問題を研究し、提言している世界でも非常に珍しい財団といえます。当然ながら日本だけで海洋問題を解決することはできません。世界中につながる海をまもるためには、世界の人々と一緒に取り組んでいかねばならないのです。

海洋問題の象徴、北極を体験!



角南
 
私が注力し続けている問題のひとつに、北極があります。井植さんも一緒に北極へ行きましたね。

井植 はい。しかも最も寒い2月に……直前まで行くかどうか悩んでいました。

角南 北極こそ、海の問題の象徴なんです。無理矢理にお連れしてしまったかもしれませんが、海がいかにして地球全体とつながっていて、各地でその影響が出ているのかということを、井植さんにもぜひ現地で実感していただきたかったのです。

井植 本当に目からウロコの体験で、まさに世界の見え方が変わりました。会議では、北極点を中心にした世界地図を軸に議論が進行しましたよね。普段見ている近隣諸国がまったく違って見えました。

角南 地球や環境システムのいろんな影響が、最も凝縮して現れるのが極域です。北極は気候変動の影響を色濃く受けていて、我々が住んでいる場所で起きていることの何倍もの影響が、あの小さな極に集まっています。

井植 いわゆる3極の問題ですね、北極、南極、そして膨大な量の氷を蓄えるヒマラヤなどの山脈。今ではだいぶ知られるようになりました。

北極圏内に位置するノルウェーの都市・トロムソ

北極圏内に位置するノルウェーの都市・トロムソ


角南 はい。これら3極の氷がどんどん溶けています。私が特に北極に注目しているのは、北極だけが海の上だからです。南極は大陸ですし、ヒマラヤは山ですから。

つまり北極は、海洋の影響をよりダイレクトに受けるわけです。同時に北極が海洋に与える影響も大きく、とにかく北極を何とかしようと、国際会議が北極圏で毎年行われています。これまで北極問題というと、周辺に住んでいる人たちだけの話でしたが、今は違います。北極のことは地球全体で考えないといけません。北極の状況をもっと調べないと、我々が生きている地球の健康状態がわからないということです。

井植 実際に北極会議に参加し、北極海航路から少数民族にいたるまで、さまざまな課題に関わりました。また、夜が明けない北極圏の街・トロムソを体験できて、本当に有意義でした。


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