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防災はルールに従うことではなく「命を守る行動」

こうした悲劇を繰り返さないため、高橋さんは現在、防災アドバイザーとして学校教育や自治体を通じた防災活動もしている。「防災」といっても、彼が唱えるのは物質的な備えではない。

「備蓄や防災グッズなど、いくらハード面が充実していたとしても、メンタルの部分が変わらなければ意味がない。まずは、迫ってくる危険を正確に“危険”と判断できるようにならなければいけないんです。

そのためには、死を身近に感じて、生きるためにどう行動するかを常に意識することが大切。例えば、東北では大震災から5年くらいまで、津波警報が発令されたときの避難率がほぼ100%でした。それは3.11を経験して、死という身の危険を直に感じていたからです」。

逆に言えば、死を身近に感じなくなれば、また「逃げ遅れる人」が出てきて、悲劇が繰り返されるということだ。災害を経験し、後悔してからでは遅い。




「福島もそうですけど、大震災後、しばらく学校では震災の話をするのはタブーになっていました。理由は、子供たちがPTSDになるから。でも、子供たちは大人が思っているより頭を回転させているし、状況を把握しているんです。

地震大国で生きていく子供たちに”生きる術”を身につけてもらうためには、震災の話も、亡くなった人の話もしないといけないんです。

以前、富山県や石川県の学校で講演したとき、東日本大震災のことを話すと、子供たちは涙を流して『避難することの大切さ』を感じ取ってくれました。心に響いたことは子供同士でも話すし、家に帰っても話すんです。そうすると親子で防災の話もできますよね」。

高橋さんたちの活動が功を奏し、能登半島地震では子供たちが積極的に動き、被害も最小限に止まったという。



「防災訓練ではルールに従うということが重視されていますが、型通りの避難が必ずしも安全だとは限らない。東日本大震災では、避難所に逃げても津波で全員亡くなったケースもありました。いちばん大事なのは、命を守る行動を起こすこと。それを教えていくことこそ、防災なんだと思います」。

防災は、継続して話を聞くことで受け手の意識の中に刻まれていく。高橋さん曰く、「ラジオ体操のように防災が身に付く」のが理想なのだ。

「身近な人が犠牲になる前に危険を認識してほしい。逃げるに勝る防災はない」という高橋さんの言葉を改めてリマインドして日常を過ごしたい。

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高橋智裕=写真 池田裕美=取材・文

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