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自然と人間の本質に触れた、カヤックでの川下り旅

そして、カナダとアラスカを流れるユーコン川を、カヤックをレンタルして1週間ほど旅しました。実はこの時が旅してきた中で一番自然を感じたひとときだったかもしれません。

ユーコン川

ユーコン川


食事を1週間分カヤックに積み込んで、ゆったりと美しい風景や動物たちを眺めながら川を下り、お腹が空いたら川岸に上がって火を焚き食事。夜は満天の星空の中、川の音をラジオ代わりにテントで熟睡と、実に贅沢な時間を過ごしました。

電波も入らなければ、人とも出会わない。音や風にもすごく敏感になって、普段は気づけない動物の気配を感じたり、感覚が研ぎ澄まされていくようでした。

そして気づけば、家族や大切な人のことを考えていました。
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こうした圧倒的な自然の中に一人でいると、人はやっぱり寂しくなるんですね。人間社会がいかに人の心のサポートになっているかを実感しました。人が一緒に暮らすことは、もちろん生物的に有利な面も大きかったのでしょうけど、心の面でも安定につながっているのだと。

一人旅でも全然余裕だと思っていた僕が、思いも寄らないところで自分を見つめ直すことができた、学び多きカヤック旅でした。

ユーコン川

ユーコン川


こんなにも身近に出会える、アラスカ、カナダの野生動物たち

もちろん、この大自然に囲まれて多くの野生動物たちが暮らしています。ここからは身近に出会えた動物たちをご紹介していきます。

まずは、アメリカの国鳥・ハクトウワシから。

日本だと動物園などでしか見られないですが、アラスカからカナダにかけてたくさん住んでいて、特にアラスカのキーナイフィヨルド国立公園、カナダのユーコン準州では毎日のように見ることができました。

かつてはアメリカで絶滅危惧種に指定されていましたが、法律による保護対策によって40年かけて生息数を回復させたそうです。

水面の獲物を探すハクトウワシ(ユーコン川/カナダ)

水面の獲物を探すハクトウワシ(ユーコン川/カナダ)


続いては、アメリカビーバーです。

湖や川に住んでいて、僕はアラスカのタルキートナレイクの湖畔で野宿していた時に出会いました。

夜9時頃、テントの中で寝る準備をしていた時に「パンパンパン」という水面を叩くような音が湖のほうから聞こえてきて、なんだろうと思っていたのですが、翌日そこに草をくわえたアメリカビーバーがすいすいと泳いでいるではありませんか!

興奮しながら急いで撮影した動画がこちらです。



デナリ国立公園では、ムース(ヘラジカ)とカリブー(トナカイ)を見ることができました。

カリブー(トナカイ)はシカ科で唯一オスにもメスにも立派な角が生えますが、ムース(ヘラジカ)は角があるかないかで、オスかメスかを見分けることができます。

体長は2〜3メートルと大きく、目の前に現れると迫力があります。

ムースのメス(デナリ国立公園/アラスカ)

ムースのメス(デナリ国立公園/アラスカ)




カリブー(トナカイ)との出会いは、それはもうとても衝撃的なものでした。

公園の奥地を求め、自転車と小分けにした重い荷物を何度も行ったり来たり運びながら、川を進んでいたら、カリブーが爆走して来たんです。動画の中央奥にご注目ください。

轢かれたら僕も自転車もひとたまりもありません。本当に怖かったですよ、“ビビり倒し” ました(苦笑)



そして怖いといえば... そうです、クマ。ブラックベアーとグリズリー(ハイイログマ)の登場です。

自転車を漕いでいると、すぐ横をのらりくらりと歩いていたり、車と違ってあまり見慣れていないのか、ビックリした様子で森の中に走っていったりします。

今回20頭ぐらいと出会いましたが、幸い僕は危険な目に遭うことはありませんでした。ただ距離も近く、足も速いので、相当怖かったです。

ブラックベアー(カッシアハイウェイ/カナダ)

ブラックベアー(カッシアハイウェイ/カナダ)




「ベアーカントリー」における野生動物との共生の知恵

では現地の人々は、そんなクマや野生動物たちとどのように付き合って暮らしているか、についてお伝えしていきたいと思います。

ベアーカントリーと言われるほど、アラスカには多くのクマが生息しており、ブラックベアーが約10万頭、グリズリーが3万頭ほどいると言われています。

人口が約73万人、日本の約4倍の面積で全米最大の州であるアラスカで、豊かな自然と生態系が保たれることの重要性を、人々はとてもよく理解しています。

日常の暮らしの中で人よりも断然よく出会うクマや野生動物たちのために人間ができることを、地元の人々やレンジャーが昔から考え、当たり前のこととして実践し続けています。

野生動物たちに餌を与えたり、近づくことを禁止し、ドライバーに運転注意を呼びかけるための標識や、クマの出没情報を共有するための案内ボードなどが設置されていました。



さらに、バックカントリーと呼ばれる、ありのままの自然を楽しむアウトドアアクティビティの場では、動物たちとの距離がぐっと近くなります。例えばデナリ国立公園には、レンジャーさんたちから滞在に必要な情報や知識を教えてもらうための案内施設があり、守るべきルールも存在していました。

基本的に食材は全て「ベアー缶」に入れて持ち歩き、キャンプ場などには荷物やゴミ箱を入れるためのロッカーが設置されています。外に放置していると、鋭い嗅覚を持つ動物たちにあっという間に荒らされてしまいますし、何より危ないですからね。

やはり危険な状況でクマや野生動物たちと遭遇しないための行動を徹底することが大原則とされています。



その指標の一つとなるのが、野生動物たちとの距離感です。

安全な距離として、例えばムースは100m、クマは300mと現地のレンジャーに教わりました。また、その距離をフィールドで瞬時に判断するのは難しいので、体の前方に腕を突き出してグーサインして、親指に隠れるサイズならムースは安全な距離感、同じように小指を出して収まるならクマとの安全な距離感と判断できるとのことでした。

野生動物に出くわしてしまった時には──?

そして、それを超えて相手が近づいてきた場合には、まず大きな音を鳴らす、声をあげるという行動を取ります。もしテントを張っているなら揺さぶって体の一部に見えるようにしなさいとも言われました。相手に自分の存在を認識させるのが目的で、近くに物があればそれを使って、自分を大きく見せるのも効果的とされています。

それでもさらに近づいてきたら、ムースやカリブーの場合は横にステップを切って避ける。多くの動物に対してもそうですが、背中を見せて逃げるのは危険です。

クマの場合にはベアスプレーの出番となります。唐辛子を主成分とし、嗅覚の鋭いクマにとって脅威となります。うつ伏せになって、首の後ろで手を組んで防御しながら顔とお腹を地面で守り、近づいてきたタイミングで不意打ちを狙いながらスプレーをクマの顔面を目掛けて発射する、というのがレンジャーから教えてもらった方法です。

クマ、野生動物を前にして、落ち着いてこうした行動をとれるかが最大の課題になりそうです。



アラスカでは、地元の人と話す度に「ベアスプレーは持っているか?」と聞かれるほどで、このような様々な対策は、文化と言えるほどに定着していました。そして、その背景にある思いを、とあるバーで出会ったオーナーの一言から感じました。

「クマや野生動物たちが暮らす自然の中に僕たちは住ませてもらっている」。

現代社会に暮らす中、忘れていた大切なことを思い出させてもらった気がしました。
3/5

海・都会・自然が調和したアメリカ西海岸の魅力

それでは、さらに南へ進んで、アメリカ西海岸の旅をお届けしてまいりましょう。

シアトルを越え、ポートランド、サンフランシスコ、ロサンゼルスと海岸線を進むと、すっかり都会やリゾートといった感じですが、こういった都会でも自然と触れ合える場所が身近にあるのが、このウエストコーストの素晴らしい特徴だと思います。

左上:ポートランド 左下;ゴールデンゲートブリッジ(サンフランシスコ) 右上:ベニスビーチ(ロサンゼルス) 右下:グーグル(シアトル)

左上:ポートランド 左下;ゴールデンゲートブリッジ(サンフランシスコ) 右上:ベニスビーチ(ロサンゼルス) 右下:グーグル(シアトル)


これぞアメリカ...! 世界遺産、国立公園も迫力のスケール

国立公園発祥の地・アメリカには、世界遺産に登録されるなど、世界中から大勢の人々が訪れる国立公園や自然観光地が多く存在し、唯一無二の規模、歴史、迫力を誇ります。

例えば、カリフォルニア州北部の世界遺産で、映画「スターウォーズ」や「ジュラシック・パーク」のロケ地としても知られる、レッドウッド国立州立公園。
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世界で最も背が高くなる樹種「レッドウッド(セコイア)」をはじめ、緑が生い茂る広大な森を2日間たっぷりトレッキングしてきました。まさにどこを切り取っても映画の世界の中にいるようでしたが、特に朝日のタイミングでトレッキングに出かけると、巨木の間に差しこむ光と影のコントラストが非常に美しく、凛とした空気を味わうことができました。

オーバーツーリズム、訪問客のマナーの問題への対策や、絶滅が危惧されているカリフォルニアコンドルの保護活動など、自然保護への姿勢が徹底されていました。

レッドウッド国立州立公園

レッドウッド国立州立公園


サンフランシスコから東に300kmほどにある世界遺産で、アメリカ三大国立公園の一つとも言われる「ヨセミテ国立公園」では、往復10時間かけてヨセミテ渓谷のシンボルの一つ、ハーフドームに登ってきました。

登頂には許可が必要で、一日に登れる人数も300名までと決まっているのですが、抽選の結果、見事当選! 朝5時、まだ暗いうちにヘッドライトをつけてスタートし、ラストのほぼ垂直なケーブルラインでは怖くて無駄に腕に力がつつも、標高2693mを無事登りきりました。花崗岩に囲まれた渓谷の美しく壮大な景色と達成感で心が満たされたことをよく覚えています。

ヨセミテは、世界最大の花崗岩の一枚岩「エル・キャピタン」をはじめ、世界中からクライマーが集まるロッククライミングの聖地とも呼ばれていますが、ハーフドームは特別なスキルなどは必要なく登ることができますので、行かれた際にはぜひトライしてみてください。


そして、ラスベガスからさらに内陸部に入ると、またこれまでとは違った乾燥地域やコロラド高原ならではの自然の表情に出会います。

まずはグランドキャニオンに次ぐ人気を誇るとも言われる「ザイオン国立公園」です。

中でもザイオン渓谷を流れるバージン川の沢登りが楽しめる大人気トレイル「The Narrows(ナローズ)」は、アクティビティ好きにはたまらないかと! 往復10時間の日帰りトレイルで行くことのできる最奥地のビッグスプリングと呼ばれるポイントを訪れます。

僕が参加した11月には水温も下がってきていたのでドライスーツをレンタル。川幅わずか6mの両側に高さ300mもの岩壁がそびえ立つ、ザイオン渓谷の大迫力を堪能することができました。


こちらはユタ州との州境に近いアリゾナ州北部、バーミリオン・クリフス国定公園の自然保護区内コヨーテビュート・ノースエリアにある「The Wave(ザ・ウェーブ)」。

遡ること2億年。恐竜の時代・ジュラ紀に層になった砂丘が圧力で固まって形成されたナバホ砂岩が、後に雨・鉄砲水や風の侵食を受け姿を現した、独特の色合いと流線形の地層はまさに悠久の自然が織り成したアート。もろく損傷を受けやすい砂岩を保護するため、抽選で1日に64人だけ訪れることが許される、秘境中の秘境の絶景スポットです。

美しい岩の斜面をポイントに向かって地図を握りしめて歩く2時間半ほどの間、トレジャーハンターになったような気分でした。 

抽選は、4カ月前に行われる事前抽選で48名、2日前のデイリー抽選で16名が選ばれるというかなりシビアなもので、僕は自転車での移動で予定が不確定だったので2日前抽選に参加しました。カナブという小さな街で野宿中に当選連絡がきて、テントの中で大興奮したのをよく覚えています。


必見の奇岩スポットはまだまだ他にも!

堆積岩が川ではなく風や水・氷によって浸食されたフードゥと呼ばれる土柱が立ち並び、巨大な自然の円形劇場(アンフィテアトルム)とも言われる「ブライスキャニオン国立公園」や、アメリカ先住民ナバホ族の準自治領「ナバホ・ネイション」にあり、西部劇をはじめ映画のロケ地として知られる「モニュメントバレー」。

そして、世界遺産でアメリカ三大国立公園とも言われる「グランドキャニオン国立公園」で、約20億年という気が遠くなりそうな地層の重なりを感じてきました。

ナバホ族の聖地とも呼ばれるモニュメントバレー

ナバホ族の聖地とも呼ばれるモニュメントバレー


ブライスキャニオン国立公園

ブライスキャニオン国立公園


グランドキャニオン国立公園

グランドキャニオン国立公園

4/5

どこか佇まいが都会的!? ウエストコーストの野生動物たち

ウエストコーストでは海と陸、多種多様な野生動物たちをすぐ近くで目にすることができます。

まずは海から! オレゴンコースト沿いを走っていた時に運よく見つけたクジラ、おそらくコクジラ(グレーホエール)だと思います。

ブロー(潮吹き・息継ぎ)や尾びれを見せ、海岸に集った僕たちオーディエンスを楽しませてくれました。


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世界中から展示方法や生態系の保全活動などで高く評価されるモントレーベイ水族館を訪れた際には、すぐ目の前に広がる湾で、野生のゼニガタアザラシに出会うことができました。

カニを握りしめていたラッコにも。かわいいですね!

ゼニガタアザラシ(モントレーベイ)

ゼニガタアザラシ(モントレーベイ)


ラッコ(モントレーベイ)

ラッコ(モントレーベイ)


生物で習った「ベルクマンの法則」を実体験

前述のカリフォルニア州北部の世界遺産「レッドウッド国立公園」ではエルク(ヘラジカ)が、ザ・ウェーブのバーミリオン・クリフス国定公園ではミュールジカが姿を見せてくれました。

アラスカで見たムース(ヘラジカ)ほどではないにしろ、エルクも2m以上はあり、大きくて迫力があります。ミュールジカは1m前後でした。

左:エルク(レッドウッド国立公園) 右:ミュールジカ(バーミリオン・クリフス国定公園)

左:エルク(レッドウッド国立公園) 右:ミュールジカ(バーミリオン・クリフス国定公園)


と、ここで思い浮かんだのが「ベルクマンの法則」です。生物の授業で習った記憶がある!という方もいらっしゃるのではないでしょうか?

ざっくり説明しますと、同種・近種の恒温動物において、北の寒い地域に住む個体ほど体が大きいという法則です。これは体重あたりの体表面積をより小さくして、放熱を少なくしたほうが体温を保つのに有利だからで、身近な例をあげると、温かいご飯をどんぶりに山盛りにしたほうが冷めにくいのと同じ原理です。

アラスカから南へ下るにつれ、シカ科の動物がみるみる小さくなっていったのを観察でき、この法則を実感することができました。


5/5

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