「根を張りたくない。根無し草万歳」
後輩たちには「ケンケン」と愛称で呼ばれているという右近さんだが、「普段は『ケンケン、これどうしたらいいですか』って気軽に相談に来てくれるけど、出番の直前には『右近さん』とすら呼べない感じ」が理想だという。
(撮影:今井康一、スタイリスト:三島和也(tatanca)、ヘア&メイク:STORM(Linx))
「親近感と遠い存在、どちらも必要だと思うんです。あまり遠い存在になり過ぎても、絶対セリフを間違えられないし。絶対にミスできないなんて、嫌なんで。もうちょっと楽にやりたい。
親しみやすいと思ってたら、なんで急に気を遣わせてるんだ、どっちだよ?わかりづらいよ!みたいなのがいい。周りには気を遣わせたいですね、困らせたい(笑)」
そう冗談まじりに話しつつも、根底にあるのは「人として面白い人間でありたい」ということだという。
「僕らの稼業って、真剣に長年やっていると人間国宝とかになれるじゃないですか。
でも、歌舞伎俳優国宝ではなく『人間国宝』、つまり人としての国の宝。役者である前に、人としてのことで評価されている。『芸は人なり』だと思うんです。
歌舞伎のプロフェッショナルになる前に、ある程度まともで、面白い人であるべきだと思うので、人としての部分にこだわりはあるかもしれない」
それは、歌舞伎俳優と清元という二刀流として舞台に立ち続けるがゆえの、右近さんの仕事観にもつながっている。
「清元をやらせてもらっているのもそうですが、いろんなことをやって、『こういうカテゴリーの人』という括りになりたくないというのはありますね。
根を張りたくない。根無し草万歳、みたいな。
根無し草って、パッとたどり着いたところが自分の居場所で、そこで生い茂るんだけど、またどこかに飛んでいって……。毎回そんな感じなのか僕には合ってる。
草に根が生えちゃたら、踏んづけられたらそれで終わってしまうけれど、根が生えてなかったら、すぐ逃げられるじゃないですか。そのほうがいい」
『尾上右近 華麗なる花道』(主婦の友社)。
7/7