最後には魚を締め、命の尊さを伝える
さて、快晴下のこの日、開会式が終わるとレベル別に分けられた9チームは釣り場へ移動していった。釣り堀の中へ入る時点で子は親と離れ、コーチと同い年くらいの子供たちと過ごすことになる。
そして持ち場に着くと、子供たちはコーチに指南されてタナ合わせを始める。
「深さはどれくらいか?」と推測しながら作業を進めていると、しばらくしてひとりのコーチが真鯛を釣り上げた。途端にコーチ陣の間で「タナはどれくらい?」「9mほど」といった情報交換がなされ、その言葉をもとに仕掛けを作り直し、次々に目指すポイントへ投げていった。
海の上とはいえ釣り堀だけに魚は放流され、釣りやすい環境にある。程なくして「かかった!」「釣れた!」という歓喜交じりの言葉があちこちから上がっていった。
「チームは同年代の子供たちで組みますから、お互い刺激になるようです。誰かが釣ると“自分も!”となったり、生きた餌を最初は触れなくても、平気な顔をして針に通している他のメンバーを見て、やがて自分もできるようになったり。
成功体験を得た子供たちの顔つきは朝とは違うものになります。その様子を担当コーチにフィードバックするとみんな喜びますね。次回以降のモチベーションになるようです」。
誰もが釣果を上げた頃合いを見て、釣り場の掃除が行われた。掃除は釣り人としてのマナーを伝えるもので、コーチからは「たとえ自分が出したものでなくてもゴミがあったら拾ってね」と声がかかり、子供たちはそれに応えていった。
ゴミを拾い終えると、今度は釣った魚を釣り堀のスタッフが締めてくれた。血抜きとともに鮮度と美味しさを保つための神経締めがなされ、子供たちは釣りとは魚の命をいただく行為であることを知ることに。
「家に帰ったら鱗と内臓をとって食卓へ。きっと残さずに美味しく食べてもらえるはずです」と西垣さん。
なるほどD.Y.F.Cは、魚を釣り上げる楽しさだけでなく、命の大切さも子供たちに伝える“釣り育”を実践する場なのだった。
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