「おそらくパタゴニアの社員も知らない」稀少なジャケット
“謎のジップアップジャケット”は、ポリアミド仕様でストレッチが利いている。胸元を走るステッチデザインが特徴的だ。
ヴィンテージバイヤー歴28年という業界の重鎮は、これまであらゆるアイテムに袖を通してきている。もちろんパタゴニアも例外ではない。
「グリセードジャケットやダスパーカなど、いわゆる名品と呼ばれるアイテムは、商材としてひと通り買いましたし、プライベートでも愛用してきました。古着業界でも人気が高い80〜90年代のパタゴニアは、独特の柄や色使いが格好いいですよね。
ただ僕はパタゴニアに限らず、デニムでも軍モノでも人が持っていない面白いものを探したり、集めたりするのが好きなんです」。
そう言って栗原さんが紹介してくれたのは、アンチテーゼの固まりとも言えるパタゴニアジャケットだ。
襟内側部分には、刺繍仕様のブランドの織りネームと品質タグがつくが、アイテム名についての表記は皆無。
「買ったときには詳細がわからず、ネットなどで調べても同じものは見つからずでした」と栗原さん。品質タグに製造年が記載されていたため、2010年に作られたということだけわかったが、モデル名は不明だった。
「インラインでは、ほぼ同じデザインでインテグラルジャケットという名前のモデルが存在しますが、通常のインテグラルは左胸にパタゴニアのロゴが刺繍されているほか、胸の切り替えにリフレクターが使用されているのに対し、これにはどちらも付いていません」。
チャコール(畳み)が2008年製のマテリハジャケットで、ブラックが2009年製のトパトパジャケット。素材感が微妙に異なるものの、先述のアイテムとほぼ同デザインだ。
アメリカ製ということも判明したが、それがまた新たな謎を生むことになる。
「アメリカ製でこの年代のパタゴニアは基本的に市場には出ていないはず。となると、これはMARS(マーズ)
※などと同じく、米軍向けに作られたものではないかと思っていたのですが、最近知人のリサーチで、軍モノではなくユニフォーム用のラインで製造されたものであることがわかりました。
ただし、一般企業向けにわざわざアメリカ国内で特定のモデルを製造することはないと思うので、おそらくは連邦政府の予算を使って政府関連の機関に納入されたものではないかと思っています。
また、このほかに色違いを2枚所有しているのですが、それぞれ2008年にマテリハジャケット、2009年にトパトパジャケットというモデル名だということが判明しました。製造年によってモデル名が異なるのも面白いですね」。
※「Military Advanced Regulator System」の頭文字をつなげたもので、2000年代にパタゴニアが米軍への納品を目的に製造されたライン。 この日の栗原さん。ジップジャケットの下は、ピンクのハットが映える90年代の古着のフォトプリントTシャツに、マナスタッシュのショーツ、クラークスのレザーシューズ、シティーカントリーシティーのキャップという出立ち。
ジップジャケットの裏地には部分的にメッシュを採用し、さらにはサイズの微調整ができるようにドローコードまで内蔵している。意外と(!?)機能的な作りになっているのだ。
3/3