蘆田裕史(以下、
蘆田):私はファッションと身体の関係性やファッションデザインの批評について関心をもって研究しています。パーソナライゼーションは、異なる身体をもつ顧客一人ひとりの満足度の向上や在庫リスク削減という観点で重要な取り組みです。
しかし、例えば最近では、靴のサイズは生産性・効率性を重視するために、0.5センチ単位ではなく、S・M・Lの3サイズのみ展開するブランドも増えています。既製品のフォーマットが多様性を尊重するパーソナライゼーションの動きとは逆行している。既存システムでは効率化と多様性の折り合いがつかなくなっている状況があり、どうにかしなければという問題意識があります。
川崎:米スタートアップ「unspun」は、究極的に「生地を生産する機械の寸法」を変革する必要性に気づいたと言っています。生産される衣服の量やサイズが大量生産の仕組みによって制御されることが最大の問題であると。200年近く変わっていない製造システムの保守性を前提に新たなデザインのあり方を発明しようとすると「DXは万能」という単純な発想は通用しません。
長い歴史をもつ織り機等の機械から素材、データ、職人まで多様なステークホルダーやモノのネットワークにもぐり込み、強固なインフラストラクチャを漸進的に変える実践が求められるのではないでしょうか。
蘆田裕史◎京都精華大学デザイン学部准教授/副学長。専門はファッション論。著書に『言葉と衣服』(アダチプレス、2021年)など。ファッションの批評誌『vanitas』(アダチプレス)編集委員、本と服の店「コトバトフク」の運営メンバーも務める。
「ファンダムとの関係性」と「想像のバグ」
倉田佳子(以下、
倉田):私はファッションを軸に、雑誌への寄稿やイベント実施、海外ブランドにアーティストコーディネーションを行なっています。パーソナライゼーションは大量生産型のアパレルブランドに対して有効だと思います。一方で、バレンシアガなど大胆なシルエットを打ち出すブランドの場合、「デザイン」と「効率化」の境界線について、いま一度考える必要性が出てきます。
例えば、デニムをパーソナライズしようとしても、こうしたブランドからはウエストをゆるくしてベストで絞るバランス感がデザイナーやスタイリストから提案され、トレンドになることもあります。そうした背景もあり、現状メゾンからガニーやコリーナ・ストラダなどデザイナーズブランドは、在庫リスク削減への取り組みとして、過去コレクションの布を使ったアイテムの販売が主流になっています。
KEYWORDS|unspun(アンスパン)世界の人間による二酸化炭素排出量を1%削減することを使命に掲げる。3Dスキャンによりジャストフィットのジーンズをオンデマンド縫製するサービスから始まり、マスカスタマイゼーションを実現するための織り機も開発。 3/4