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一棟貸しの宿に泊まり、氷見を味わい尽くす



商売人であることも漁師の特徴だ。美味しい魚だから多くの人に食べてもらいたい。等しく、氷見の風土が育んだ美味しいワインだから多くの人に味わってもらいたい。そのため飯田さんは世界観の構築に強くこだわったと説明する。

「ワインは世界各地で作られています。つまりグローバル規模の競争の中で生き残る必要がある。しかも上質なワインはたくさんありますから味わいが優れているだけで人は選んでくれません。いかに売っていくのかが重要になるんです。

具体的には、遠く離れた都会にも響くエチケットのデザイン、眺望の美しいロケーションに浸れる施設など、独特の付加価値が必須になるだろうと。その世界観は創業時から懇意にしているデザイン会社と突き詰めました。

というのも、それまで全国から“そこ”を目掛けて足を運ぶお店なりが富山にはなかったんです。ならばワイナリーが融合する個性的な存在感を放つ何かを作り上げていこうと、そう考えていました」。

飯田さんたちはワイン作りを軸に富山に眠る素材の価値を最大化しようとした。北陸の地方都市という枠を超え、より広く届くように。

宿泊施設もそうだ。当初は地元の作家による企画展や料理教室を催すなどギャラリーとしての活用が主だったが、やがて「ここへ人に来てもらおう」「実際に訪れてもらい身体で感じてもらおう」という思考へ。

味覚だけでなく、人に宿る感性すべてに訴えられる環境を整えたのだ。

実際はオンラインで購入できるから、どこに暮らしていても彼らのワインは手にできる。それでも最善の味わい方は、氷見の豊かな自然を身近に感じ、新鮮な海の幸を食しながら喉を潤すことなのだろう。

一棟貸しの宿泊施設は1日1組限定で、乳幼児を含めた9人までが泊まれるからファミリーや友人たちとのトリップに有効だ。部屋にはキッチンが備わり、併設レストランもあるためいつでも地産の食を堪能できる。

さらにわずかな時間ドライブすれば真っ青な海が広がる静かなビーチが点在。北は荒磯の灘浦海岸から南は白砂青松の松田江の長浜まで続く氷見のコーストラインは能登半島国定公園に指定されるほどの美しさ。夏には雄大な山々の絶景を望みながら海水浴に興じることができる。

日本の他の地域にはない、氷見だから味わえる海尽くしの時間が待っているのである。
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1980円。イカロス出版

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2012年から続く本連載が一冊の本『海と暮らす〜SEAWARD TRIP』となった。これまでオーシャンズで紹介されてきた記事から20人のインタビューと20本のコラムを厳選して綴じたもので、「暮らしを豊かにする 金言」がたっぷり。

海との距離をギュッっと縮めてくれる内容は、まさに“海をいつも感じていたい”気分にぴったりなのだ。


SAYSFARM=写真 小山内 隆=編集・文

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