ブロークコアがZ世代を席巻している。
サッカーカルチャーにインスパイアされたもので、主にユニフォームを着こなしに採り入れたスタイルをいう。ブロークを欧文表記すればbloke。熱狂的なサッカーファンを意味する、古くからあるイギリスのスラングだ。2022年のFIFAワールドカップでにわかに脚光を浴びた。
ブロークコアにはルーツがある。マンチェスターやリバプールを震源地として1970年代後半に広まったテラススタイルがそれだ。
「パレルモ」はブロークコアの足元にぴったりだ。
ブロークは贔屓のチームの遠征試合にも乗り込んだ。彼らは行く先々でスニーカーを手に入れ、そしてホームでの試合にもそのスニーカーを履いて駆けつけた。
彼らが集うのはゴール裏の手すりがあるだけの立ち見席、すなわちテラスだった。その着こなしはいつしかテラススタイルと呼ばれるようになった。
遠征するほどの時間も金もないファンはブロークたちを羨望の眼差しでみつめた。遠征はできなくても、せめて同じ格好をしたい。ファンはこぞってブロークが履いているスニーカーを探し求めた。
それがプーマやアディダスのガムソールシューズだった。プーマのガムシューといえば「デルフィン」や「スーパーチーム」がポピュラーだが、当時、勝るとも劣らない人気を誇ったのが「パレルモ」である。
発売は’81〜82年の1年ほどとごくわずかな期間ながら、テラススタイルの盛り上がりに呼応してその名は知れ渡った。
カラーパレットはグリーン/オレンジ、ブルー/ホワイト、ライトグリーン/ピンクの3つ。素材はオールスエード。「パレルモ」1万3200円/プーマ(プーマ お客様サービス 0120-125-150)
時を経て1990年代。ガムシューはミュージックカルチャーと密接に結びつく。オアシスやザ・ストーン・ローゼズなどのミュージシャンがバギーパンツの足元にそいつを合わせたのだ。
最先端の素材で武装した「パレルモ」
トレーニングシューズの「パレルモ」はナイロンをベースにスエードで補強したアッパー、そしてガムソールをその特徴とする。ナイロンは70年代後半のジョギングブームで注目されたマテリアルであり、軽量で耐久性に富むそのマテリアルはトレーニングに格好だった。
21AWにはじめて復刻された「パレルモ」。オリジンに忠実なネイビー/ホワイトで染めたナイロン・ボディ。
ナイロンの登場にあわせて考案されたのがシグネチャータグだ。ナイロン・ボディには箔が乗りにくいし、なんとか乗せても落ちやすいというのがその理由である。
T字型のトウキャップもトレーニングシューズならではの意匠。つま先を保護するのみならず、ぐるりと土踏まずまで伸びたトウキャップはブレを防ぐ効果も期待できる。
そして、なんといっても見逃せないのがガムソールだ。飴色のラバーを成型したそのソールは1978年に登場したハンドボールシューズ「プラド ステンツェル」のために開発された。吸盤状のトレッドパターンはコートはもちろん、フィールドにおいても抜群のグリップ力を発揮した。
これを忠実に再現したのが21FWに登場したモデルで、このたびローンチされたモデルはアッパーを色あざやかなスエードに変更している。「パレルモ」はシチリア島の港湾都市の名にあやかっており、その町の果物売りにインスパイアされているという。
とりわけ印象に残るピンクはセリエBのパレルモFCのキーカラー。プーマは’23年、同クラブと契約を結んだ。
蛇足ながら付け加えれば、往時のスニーカーにはプーマに限らず都市の名を使うことが多かった。商標権が発生しないからだ。
復刻のこだわりと復刻するに足る理由
プーマは知る人ぞ知るこのモデルを現代のライフスタイルシューズとしてアップデートした。要諦はラスト。トレーニングシューズのそれはウエストもぐっと絞り込まれていた。これでは履く人を選ぶ。万人が履けるように削りを浅くしたのだ。
絞り込みを抑えれば全体の印象はどうしたってぼんやりとしてしまう。ところが「パレルモ」はそうはならなかった。ポイントは逆ハの字のシルエットを描くソールにある。
「クラシカルなトレーニングシューズでおなじみの意匠であり、視覚的にはスマートにみせる効果があります。現物を目の前にしてパターンを起こしたからこそ採り入れることのできたこだわりといえます。
プーマが復刻プロジェクトを推し進める場合は必ずといっていいほどアーカイブを参照してきました。本社に残っていなければコレクターから手に入れてでも」(トレードマーケティングマネージャー、野崎兵輔さん)。
それにしてもなぜ、わずか1年でディスコンとなったのか。
「同時期にはハンドボールシューズ『スーパーチーム』が展開されました(’80〜85年)。こちらはメッシュを使っていました。おそらくは新素材開発に精力を注いでいた時代だったのでしょう。そしてメッシュに軍配があがったということだと思います。そこからわかることは、アスリート・ファーストなものづくりはプーマにとって変わらぬイズムだったということです」(野崎さん)。
開発競争に敗れたわけだから、時代の徒花ということになるのかも知れないが、テラススタイルにおいては大輪の花を咲かせた。ひとつの道が絶たれたとしても、したたかに生き抜く。それは現代のぼくらを鼓舞する生き様といえるのではないか――。
そんなところも、オーシャンズ世代におすすめしたい理由である。
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