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USドルはエジプトで手に入れた。

ドルを両替してくれる場所がなかなかなく、リサーチにリサーチを重ね、最終的にエジプトのカイロでカジノに行き、カードで10万円ほどチップを買い、それをそのままUSドルに換金したのだ。

現金は肌身離さず、靴のソールの裏、パスポートと一緒に体に巻きつけたシークレットポーチ、裏ポケット、盗まれてもいい見せ財布などに分散し管理した。

金とパスポートさえあれば、何とかなる。
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旅人から集めたエチオピア入国に関する情報をまとめたノート(写真:著者提供)

旅人から集めたエチオピア入国に関する情報をまとめたノート(写真:著者提供)


ナイフを持った男性との命を賭けた喧嘩

先ほど話しかけてきた男が言い寄ってきた。

無視をしてバスに乗り込もうとすると、肩に手をかけ俺を外に押し戻した。バスはほぼ満杯で、俺を残し最後の数人が乗り込もうとしている。

「ノーサンキューって言ったよな。意味がわかんねーよ」

そう言ってもう一度バスに乗り込もうとしたら、今度は俺の前に回り込んだ。

彼を避けて強引にバスの席に座ろうとしたが、また肩に手をかけてきたので流石に頭にきて手を払い、体を突き飛ばした。拳銃やナイフを出す仕草がないか静かに観察した。

一度イギリスのブライトンでナイフを持ったブラジル人と格闘したことがある。

深夜にドミトリーの外で煙草を吸っていると、薬でヘロヘロにキマった同じくらいの背丈のブラジル人が話しかけてきた。

面倒なことにならないよう、笑顔で会話をし、酔っ払いをいなすように話していると突然「ジャップ」「イエロー」「国に帰れ」などと激昂し、罵ってきた。

すぐに金品目当ての恐喝だと悟った。

無視して宿に戻ろうとドアを開けたその時、ナイフを持って俺に近づいてきた。

咄嗟に相手のナイフを持った手首を握り、そのまま腕と体を壁に押し付け、大声で助けを呼んだ。

相手は薬でヘロヘロだったのと、腕っぷしは俺のほうが強かったということもあり、何とか力で制することができた。

にぎやかな繁華街に面した宿だったので、すぐに人が集まりそのジャンキーは警察が来る前に走って逃げていった。

その時、生まれて初めて命を賭けた喧嘩をした。騒動が終わりドミトリーの共用ソファーで一息ついていると、死への脅威が遅れてやって来て、胸の鼓動が激しく高鳴った。

体にまとわりついた暗雲のような恐怖は、しばらくたっても拭い去ることができなかった。

夜の繁華街で起きた喧嘩―イギリス・ブライトン(写真:著者提供)

夜の繁華街で起きた喧嘩―イギリス・ブライトン(写真:著者提供)

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今回の相手は身長180センチぐらいの黒人だ。身体能力では引けをとるかもしれないし、拳銃を持っている可能性もある。面倒なことは避けたい。

しかし男同士は、身体の接触をきっかけに喧嘩のスイッチが入る。俺は相手を咄嗟に突き飛ばしてしまった。

ゆすりの常習犯が主張する「ビジネス」

「こいつ、ここまで案内してやったのに金を払わない」

男はそう乗客に説明をし、自分の正当性を冷静に訴えた。そして、再び俺の肩に腕をかけ俺を外に連れ出そうとする。
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外に連れ出され、バスが逃げるように出発し、二人きりになったら最悪だ。その時は何をされるかわからない。

おそらくだが、こいつは喧嘩に慣れている。やり方があざとい。

今度は腕をつかんできた。ふり払おうとしたが、つかんだ腕を離さないので、バスの入り口で軽い揉み合いになった。

「こいつは案内なんて必要ないと断ってるのにずっとついて来て、金を要求しています」

バスの乗客に助けを求めた。

「同じエチオピア人から止めるように言ってもらえませんか」

だが、乗客たちは目を伏せたり無視をしたりした。面倒には巻き込まれたくないという雰囲気だ。

「運転手さん、出発してください」

運転手はエンジンをかけた。俺はドアを閉めようとしたが、彼は片足を車内に突っ込みバスの出発をさせない。

こいつは本当にタチが悪い。国境越えをした外国人目当てにこうやってゆする常習犯に違いない。

「この村は貧乏なんだ。俺には子供が4人もいる。仕事の報酬がないと暮らしていけない。俺は君をここまで案内をしたが、金を払わない。俺は真っ当なビジネスの話をしてるんだ」

彼は乗客や運転手にも訴えかけた。知性も高いようで噓もうまい。

「さっきも言ったけど、君が勝手に話しかけてきて、俺は明確に断った。ビジネスは成立していない。君がやってるのはゆすりだ」

気づけば10分以上はこのやりとり。他の乗客からも「早く出発したい」という雰囲気が醸し出される。

時間を稼ぎ、遅延の罪悪感からお金を払わせる作戦に切り替えてきたようだ。
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