家族歴があるとリスクは2倍
ところで、男性乳がんの危険因子の1つが家族歴だ。
前出の希少がんセンターによると、乳がんや卵巣がんになったことがある近親者(父母、兄弟姉妹、子ども、祖父母など)が1人以上いる男性は、そうではない男性と比べて乳がんを発症するリスクは2倍になるという。
近親者にも乳がん患者がいる場合、「遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)」の可能性が高い。
HBOCとは、遺伝子の「BRCA1」「BRCA2」に生まれつき変異があり、それが原因で生じる乳がんや卵巣がんのこと。変異があると一般の人よりこうしたがんが発症しやすい。
「男性乳がんがHBOCである可能性は約10%。女性乳がんの4%よりも高い」と大住医師。ある報告によると、男性乳がんの場合、0~4%にBRCA1変異が、4~16%にBRCA2変異があるという。HBOC関連がんの中には膵臓がんや男性の前立腺がんも含まれるが、割合的には低い。
こうしたことから、大住医師は乳がんと診断された男性には、HBOCであるかどうかを血液で調べる遺伝子検査を勧めている。この遺伝子検査は、男性の乳がん患者であれば現在、健康保険で受けられる。
HBOCの大きな特徴は、「若くして(50歳ぐらい)発症する点」、また、「発症後にがんを切除しても、残っている乳腺組織や反対側の乳房、女性の場合は卵巣にもがんが発症する可能性が高い点」だ。
そこで、がんを早期発見し、適切な治療を早期に受けられるよう、遺伝子診断の重要性が長年叫ばれてきた。そして、これまで自費(検査費は約20万円)だった遺伝子検査が、2020年4月から、以下の条件に当てはまれば健康保険が適用されるようになった。
遺伝子検査でHBOCと診断されたら、新たながんの発症リスクを低減させるため、日本乳癌学会は『乳癌診療ガイドライン(2022)』で、予防的に反対側の健康な乳房の切除や、女性であれば卵巣・卵管の摘出を検討することを推奨している。
こちらも2020年4月より健康保険が適用となっている。
反対側の乳房を残す選択をしたとしても、年1回のMRI検査などの画像診断を健康保険で受けることも可能だ。
このほか治療に関しては、「HBOCの患者さんに発症したがんに効果が期待できるPARP(パープ)阻害薬のオラパリブが、進行・再発乳がんに対して、2018年7月から健康保険が使えるようになりました。また、オラパリブを術後に使うと再発率が低くなることがわかり、現在では術後に再発予防目的でも使われています」と大住医師。
このPARP阻害薬はその後、卵巣がん、前立腺がん、膵臓がんにも適用となり、卵巣がんには同じPARP阻害薬のニラパリブも、2020年9月から健康保険が使えるようになった。
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