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HBOCの遺伝カウンセリング

こうしたHBOCに対しては、遺伝カウンセリングが始まっている。日本遺伝性乳癌卵巣癌総合診療制度機構(JOHBOC)によると、遺伝性乳癌卵巣癌総合診療基幹施設は現在、全国に64カ所ある。

JOHBOCのホームページから「遺伝性乳癌卵巣癌総合診療基幹施設」が探せる。ホームページはこちら

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大住医師が今年3月まで勤務していた四国がんセンターでは、2000年に全国にさきがけて「家族性腫瘍相談室」を開設した(2016年に「遺伝性がん診療科」に名称変更)。以来、遺伝カウンセラーによる遺伝カウンセリングを通して、HBOCの診療体制構築に取り組んできた。

同科ではまた、HBOCと診断された患者だけでなく、その血縁者らのフォローを行っている。BRCA1、2の遺伝子変異は生まれつきのものなので、HBOCの患者の近親者も2分の1の確率で遺伝子変異を受け継いでいる可能性がある。

がんを発症してはいない遺伝子変異を受け継いでいる血縁者には、定期的な精密検査(造影乳房MRIなど)で早期発見に努める「サーベイランス」が始まっている。

このほかに、未発症者も予防的に乳房を切除する「リスク低減手術」も先述のガイドラインでは推奨しているが、大住医師によると「実際はほとんど行われていない」そうだ。その理由は、未発症者には健康保険が適用されないため、自費負担になることが大きいという。四国がんセンターの場合、両側の乳房切除と再建を行うと100万円以上かかるという。

ちなみに、卵巣・卵管に関しては、摘出をすると死亡リスクを下げることが明らかになっているため、日本婦人科腫瘍学会の『卵巣がん・卵管癌・腹膜癌治療ガイドライン(2020)』では、卵巣がん発症リスクが高まる40歳ごろに向けて妊娠や出産の希望がなければ、未発症者でも卵巣・卵管をすべて摘出することを強く推奨している。

こちらも自費で、卵巣と卵管の両方を切除すると「だいたい80万円」(大住医師)という。

四国がんセンターで実施している遺伝カウンセリングの件数は、現在は月20~30件。遺伝子検査に健康保険が適用になってから「ぐんと増えた」(大住医師)。遺伝カウンセリングでは遺伝カウンセラーが患者の話を聞き、不安が強い場合には、臨床心理士による専門的な診療を受けることも可能だ。

2020年に遺伝子検査などで健康保険の適用が実現したのは、長年、がん患者団体や日本乳癌学会が声を上げてきたからだ。

とはいえ、ハリウッド女優のアンジェリーナ・ジョリーさんが両側の乳房切除と、卵巣卵管のリスク低減手術を受けたことを公表したように、予防的な両側乳房切除、卵巣卵管切除といった考え方が広まっている欧米と比べると、遺伝子情報を生かした診療体制は日本ではまだ遅れているのが実情だ。

アメリカでは2008年に本人や家族の遺伝子検査結果に基づく健康保険の加入制限、採用・昇進の不利な取り扱いといった差別を禁止した法律を制定しているが、日本ではそうした動きもない。HBOCの診療体制も、東京以外はまだ十分とはいえないという。


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