100万円盗難被害とシャルリー・エブド襲撃事件
世界一周で鬼崎さんが訪れた国は25カ国。写真はベトナムの船上で食べたフォー。
東南アジアから始めた旅は、2カ月目にベトナムのハノイで資金の100万円を使い込まれる盗難被害に遭う。これが多事多難、1つ目のアクシデント。
「現地で仲良くなったやつがホテル側とグルで、預けていた財布からクレジットカードを抜いて100万円分を決済したんです。カード会社に事情を説明しても補償されず、ポケットに残っていたなけなしの400ドルを手に、帰国はせずに、ヨーロッパに飛びました」。
2014年、27歳。フィリピンにて。
ヨーロッパでは野宿やヒッチハイクをしながら過ごし、現地で仲良くなった相手のご飯を作りながら日々を食いつないだ。そんなある日、ラッキーな話が舞い込んできたという。
「日本人シェフを探している人がパリにいるという話を人づてに聞いて、すぐにフランスに飛びました。レストランの立ち上げスタッフとして採用されて、簡単には下りないサラリエビザ(労働ビザ)も取得できました」。
旅の途中、パリで思わぬチャンスに恵まれた鬼崎さん。ハノイで失った100万円以上の額を短期間で稼ぎ出すなど、見事な逆転勝ちを収めた。
パリ・マレ地区にある創作レストラン「SOMA」のスタッフと。
だがパリ在住1年半で、2つ目のアクシデントが起こる。日本でも大きなニュースとして報じられた爆破テロ、「シャルリー・エブド襲撃事件」である。
「テロで襲撃された新聞社は僕が住んでいた家のすぐ横だったんですよ。いつも行っていたピザ屋もランドリーも爆破されて、とてもレストランで働ける状態じゃなくなりました。5年以上働けば永住権を得られたんですが、断念して帰国しました。あのままフランスにいたら、また違った人生だったと思います」。
2016年に熊本地震発生。800万円が水の泡
パリから帰国後は地元の熊本に戻った。何もない400坪の土地を借り、畑を耕し、自ら狩猟するジビエを提供するレストランの準備に取り掛かった。
その1年後、3つ目のアクシデントが起きる。
「これから地方の存在が強くなると思ったので、地元に戻りました。広大な土地を借りて、鬱蒼とした森をショベルカーで切り開いて、水脈も掘って、レストランの建設準備を進めていたんです。そしたら、熊本地震が来て……」。
自力で森を切り開いてレストランの建設を準備した。
私たちの記憶に新しい2016年4月の熊本地震。鬼崎さんがいた大津町も震度6の被害を受けた。
「インフラも止まり、工事も全部ストップしました。レストランを開業したとしても、当分は誰もレストランに来られる状況じゃない。開業は無理だなと思いました。1年をかけて準備を進め、お金も800万円程つぎ込んでいたので、さすがにこたえました。精神的にきつかったですね」。
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