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2023.07.19

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6日間のために1年を費やし、すぐに解体される運命。初の女性ねぶた師が語るその魅力



当記事は「星野リゾート」の提供記事です。元記事はこちら
星野リゾート代表・星野佳路がゲストを招いて話を聞く対談シリーズ。今回はねぶた師史上初の女性ねぶた師北村麻子さんと対談の1回目。

熱い6日間のためだけに1年かけて制作されるねぶた

星野 今日は「星野リゾート 青森屋」に来ていただきありがとうございます。このホテルでは、北村さんが手がけたねぶたをお祭りのショーで使わせてもらっていますし、オリジナルのねぶた制作も依頼するなど、お世話になっています。

北村 こちらこそです。ねぶたはお祭りが終わると解体してしまうので、こうして別のかたちで生かしていただけるのはありがたいです。

北村さんが手がけたオリジナルねぶた「どさ?湯さ!~嗚呼、極楽極楽~」

北村さんが手がけたオリジナルねぶた「どさ?湯さ!~嗚呼、極楽極楽~」


星野 すぐに解体してしまうんですか。
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北村 そうなんです。青森って冬が長くて、夏はすごく熱気があるけどあっという間に終わるんですよね。ねぶたはそんな青森を現しているようで、儚さがあるのもいいと思っています。

星野 ねぶたは構想からどれくらいでできるものなんですか?

北村 1年がかりです。ねぶた祭は毎年8月2日〜7日なんですが、祭りが終わったら1か月くらいお休みして、その後すぐ次の年の構想に入る感じですね。

星野 ねぶた制作のスタッフは何人くらいいるんですか?

北村 紙貼りチームと、骨組みや色塗りをする制作チームに分かれていて、紙貼りチームは15人くらい、制作チームは4人くらいですね。

ねぶたの制作風景。オリジナルねぶたは、幅約1.8m、奥行き約1.8m、高さ約1.9mの山車となった

ねぶたの制作風景。オリジナルねぶたは、幅約1.8m、奥行き約1.8m、高さ約1.9mの山車となった


星野 そんなにいるんだ!すごいですね、20人チームだ。

北村 ねぶたは大きいものなので、一人だと大変なんです。


「女でもねぶた師になれると見せつけたかった」

星野 そもそも、ねぶた師にはどうやってなるんですか?

北村 私の場合は父がねぶた師なので、弟子入りしたかったんですが、真正面から「ねぶた師になりたい」と言っても、だめだと思って。

ねぶた師の師匠であり父の北村隆さんと

ねぶた師の師匠であり父の北村隆さんと


星野 それはどうしてですか?

北村 これまでにも何人か女性のお弟子さんはいたんですが、みなさん辞めてしまい、父のなかで「女はねぶた師になれない」という印象がついてしまったみたいなんです。真正面から「やりたい」と言えば断られると思ったので、父に黙って通ってみようと。少しずつ入り込んでいったら、向こうも拒絶できないじゃないですか(笑)

星野 お父さんのアトリエにってことですか?

北村 はい、父の制作の現場に通いました。3年くらいは何も教えてもらえなくて悔しい思いをしましたが、父や兄弟子がやっていることを目で盗んで、少しずつ覚えて、技術を磨いていって。「女でもこれくらいできるんだぞ」というところを見せていったら、徐々に対応が変わっていきました。

星野 「ねぶた師になりたい」と言葉には表さなくても、毎日通っていると何となくわかりそうですよね。お父さんから「ねぶた師になりたいのか」とは聞かれなかったんですか。

父と娘の関係性に興味津々の星野

父と娘の関係性に興味津々の星野


北村 それが全く聞かれなかったんですよね。

星野 そうなんだ、面白いお父さんですね。頑固な感じ。けど、嬉しかったんじゃないですか。

北村 いや、どうでしょう(笑)。私、小さいときから飽きっぽかったので、心配だったみたいですね。

星野 どのタイミングでねぶた師になりたいとお父さんに伝えたんですか?

北村 実は、ねぶた師になりたいとは言っていないんですよ。「勉強のために小さいねぶたを自主制作したいから教えてほしい」とお願いしたんですが、そのときは嫌がらずに、すごく丁寧に教えてくれましたね。

星野 そのとき、きっとお父さんは、娘がねぶた師になりたいんだろうと感じたんでしょうね。
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「いいな」とは絶対に言ってくれないライバルの父と娘

星野 ねぶたでどの場面を描くかは、どうやって決めるんですか?

北村 私の場合は、使いたい色や描きたい動物から先に決めて、合う場面を探します。物語から入ってしまうと、ぱっと見たときのインパクトが出ないかなと思ってしまって。見る人って、物語のことをそんなに知らなくても、ぱっと見たときの印象で良し悪しを感じると思うんですよね。

星野 その考え方は、画家や彫刻家と一緒かもしれないですね。

北村 個人的には、ねぶたってサプライズ的な要素がなきゃいけないと思うんです。「うわぁ、今年はこうきたか」というような驚きが。なので、毎年違う印象を与えられるようなものをつくりたいです。
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対談が行われたのは、青森県内の4つのお祭りが一堂に会するショー会場「みちのく祭りや」

対談が行われたのは、青森県内の4つのお祭りが一堂に会するショー会場「みちのく祭りや」


星野 物語のほうから入るねぶた師さんもいらっしゃるんですか。

北村 ほとんどが物語から入られますね。

星野 お父さんはどちらからなんですか?

北村 うーん、どうなんだろう、聞いたことないですね……。

星野 次は何をつくるのか、相談とかはしないんですか?

北村 しないですね。私が聞いても絶対に教えてくれないです(笑)。父も私のことをすごくライバル視しているんですよ。

お互いに、その年のねぶたの構想などを明かすことはないという父と娘

お互いに、その年のねぶたの構想などを明かすことはないという父と娘


星野 そうなんですか。お父さんは何歳ですか。

北村 うちの父は74歳です。

星野 いまだにライバル視しているんですね。若い証拠だな。

北村 そうですね。まだまだ若い者には負けない。

星野 娘の作品に一目置いているのかもしれないですね。そうすると、ライバル視したくなる気持ちもわかる気がします。

北村 そうだったら嬉しいです。

星野 できあがったとき、北村さんの作品に対して、評価とかコメントはあるんですか? 「今年はいいな」とか。

北村 「いいな」とは絶対に言ってくれないです(笑)。だめだったときは言われることがあって、ちょっとイラッとするんですけど、時間が経つと「こういう意味だったんだな」と納得できることも多いです。

半纏をスタイリッシュに着こなす北村さん。ふいに見せる笑顔が印象的だった

半纏をスタイリッシュに着こなす北村さん。ふいに見せる笑顔が印象的だった


星野 褒めてくれたことはあるんですか?

北村 褒めてくれたことはないと思います。でも、父の態度を見て、「今年は多分いいと思ってくれているんだな」って勝手に汲みとる感じです。

星野 職人ですね、褒めてくれないお父さん。だけど、いいと思っているのはばれちゃう。なんかかわいいですね。

星野は北村さんとお父さんとのエピソードがお気に入りの様子

星野は北村さんとお父さんとのエピソードがお気に入りの様子

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